間違ったプレゼント

陽月

間違ったプレゼント

 12月25日の朝は、特別な朝。子どもたちにとって、それはお正月よりも、誕生日よりも特別な朝。


 美夜ミヤは、その日は目覚ましが鳴ったら、パッと起きた。いつもは、もうちょっととお布団の中に引きこもって、お母さんが起こしに来るまで粘るけれど、クリスマスの朝だけは特別だ。

 枕元にプレゼントの包みを確認して、ワクワクしながら開ける。大人はきれいに包みを開けるけれど、美夜にはまだ難しく、破ってしまう。

 包みを開けると、ワクワクは一気に悲しみに変わった。入っていたのは、お願いしていたのと全く違うプレゼントだったのだ。


 泣きそうになるのをこらえて、美夜はお母さんがいるはずの台所へ、間違ったプレゼントを掴んで走る。

 お母さんは予想通り、台所で朝ご飯の準備をしていた。

「美夜ちゃん、おはよう。今日はちゃんと一人で起きたのね」

 朝の挨拶を返すことなく、美夜は訴える。

「お母さん、サンタさんを捕まえてきて。プレゼントが間違ってる!」


「ん〜、サンタさんは間違えたりしないと思うけど」

「だってほら、着せ替え人形だもん。ミヤがお願いしたのは、変形ロボだもん」

 そう言って、プレゼントを見せた。女の子向けの、着せ替え人形だ。温度で髪の色が変わり、美容師さんごっこもできるものだ。

「誰かのと間違ってるよ。入れ替わっちゃった子も、困ってるよ。だから、サンタさん捕まえてきて」


「サンタさんは、その子に一番いいと思う物をくれるのよ。美夜ちゃんは女の子だから」

 お母さんの言葉に、美夜は涙をこらえることができなくなった。

「なんで、女の子だったら、お人形なの? ミヤは、変形ロボが、欲しかったんだもん。ミヤ、いい子にしてたよ。なのに、なんで?」

「変形ロボは男の子のでしょ。美夜ちゃんは男の子なの?」

「ミヤは女の子だけど、変形ロボが欲しかったの」


 母と娘がその様な会話をしているところへ、お父さんがトイレから戻ってきた。

「美夜、サンタさんのプレゼントは、」

 泣いている娘を見て、その先の言葉が続かなかった。

「お父さん、ミヤは変形ロボをお願いしたのに、お人形だったの」

 お母さんに訴えてもダメだと、お父さんに訴える。


「そっか、サンタさんは美夜が女の子だから、お願いが間違って届いたと思っちゃったんだな」

「ミヤが女の子なのが悪いの?」

「そんなことは、ないよ」

 よしよしと、お父さんの大きな手が美夜の頭をなでる。

「サンタさんも、美夜を悲しませたかったわけじゃないと思うよ。きっと、こんな風に泣かせてしまったのを知ったら、サンタさんも悲しくなっちゃう。変形ロボは、お父さんが買ってあげるから、これもサンタさんにありがとうってもらっておこうな」

「うん」

 ようやく泣き止んだ美夜に、もう一度お父さんがよしよしをした。


「美夜は、本当にいい子だな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

間違ったプレゼント 陽月 @luceri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ