序章 12話

「弱虫」というのは少年が仲間達からもらい受けた、不名誉極まりない呼び名である。

いつから誰が呼び出したのか、彼自身も忘れてしまうほど昔からそう呼ばれていた。



それは決して、少年の能力が他の仲間達と比べて劣っていたからだとか、彼が修練を疎かにしてきたからだといった理由から付けられたものではない。


彼自体に何か原因があるわけではなく__少なくとも少年自身はそう思っている__彼だけが聞いているらしい「声」こそが全ての真因なのだ。



昔から不思議な気配を感じていた。

途方もない力で彼を包み込んでしまうような得体の知れない気配。

今日に至るまで、少年は何かとその気配に付きまとわれてきた。


例えば修練の途中に度々挟まれる、「力」を測るための実践試験。


ああ今回は調子が良い、どこまでもやれそうだ。


彼がそう思って胸を踊らせる度に、必ずと言ってよいほど毎回突然足に力が入らなくなる。

抗いようもないほど強力な何かに押さえ込まれているようで、少年自身の力ではどうしようもなかった。

そして、大抵その後は地面にぺたんと座り込んでしまい、自力では立ち上がれなくなるのだ。


事あるごとにそんな醜態を晒す少年の姿は、他の仲間達の目にはどう映ったか。

本番はてんで駄目な「弱虫」だという烙印を押されてしまうのも仕方がないと、彼自身も思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天空七百年 金柑 @wartermarginlove

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ