序章 10
そのイザークが、じっと少年の答えを待っている。
いつものように、感情の読み取りにくい固まった表情で。
少年はとうとう堪え切れず、その強い眼差しから逃れるように瞳を伏せてしまった。
すぐさまそれを取り繕おうと、少し困ったような笑顔を作る。
彼はそのまま相手の反応も見ずに、「これは何回も皆んなに言っていることだけど」と前置きしてからこう言った。
「私は罰が怖いんだよ。もしも司祭様達に見つかってしまった時の。ほら、だってあそこは一応立ち入り禁止だろう?」
そして相手の同意を求めるように、ね?と付け加える。
しかし、イザークの受け答えは少年が期待していたようなものではなかった。
「そうだな。けれどお前以外の皆んなが、大人に見つからないようにやっていることだ」
重たくて動かせない、冷たい大理石のような声。
一体どうやったらこんな声が出せるのだろう。
少年は不思議に思うと同時に、不意に目の前の友人にそこはかとない畏れを感じた。
「で、でも見つからないようにだなんて私なんかには」
「『なんか』なんて言うなよ!」
突然イザークが大声をあげた。
その続きを遮るように。
先程とは打って変わった、激しい怒気を含む声だった。
当たり障りのない受け答えに徹しようと思っていたのに、咄嗟に出てきた言葉が友人を刺激してしまったらしい。
少年は驚きと焦りで何も言えずにいた。
何しろこの友人は、普段全く感情を表に出さないのだ。
イザークが声を荒げるなんて一年に一度あるかどうか。
一体今の何がいけなかったのだろう。
ちらりとイザークの顔に目をやる。
あの刺すような眼差しがまたこちらに向けられていた。
威圧を感じて少年は肩をすくめる。
彼と目が合うと、イザークは手を伸ばしてその両肩を掴んだ。
「お前はどうしていつもそうなんだ?」
鬼気迫った2度目の問いかけ。
その声音からまだ怒りが抜けていない。
「いつもだ。力は私達と同じくらい持っているくせに。お前はどうしてそう...」
「分かっているよ。弱虫だ」
立て続けに言葉をぶつける友人の声に重ねて、少年は独り言のように言った。
同時にイザークが目を細めて黙る。
「私はいつだって臆病で、誰よりも弱虫なんだ...ふふっ」
今度は自分に言い聞かせるように繰り返すと、自然に少年の口から自嘲気味な笑いが漏れた。
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