序章 8

この日記は、少年が今よりずっと幼い頃に友人のイザークから譲り受けたものである。


いつのことだったかは忘れてしまったが、「日記をつけたいけれど書巻がない」と彼にこぼしたことがあった。

するとその翌日にイザークは、白紙のページが延々と折り込まれているこの小さな冊子を手に入れてきたのだ。



「一体どこから持ってきたの?」


薄っすらと埃がこびり付ている冊子の表紙を凝視しながら、少年が驚いて尋ねると、イザークは「教皇室」と事もなげに答えた。



イザーク・ロシュは滅多に表情を動かさない子どもだった。


物心ついて以来、彼とずっと共に過ごしてきた少年から見ても、友人のその特徴はほとんど変わっていないように思える。



そしてこの時も例外なく、彼は無表情だった。


教皇室に立ち入ることはclerの戒律で禁じられている。

しかし目の前のイザークは、そんな決まりごとなど気にも留めていないらしい。


しかしそれは決して彼だけではない。

「選ばれた者」と呼ばれている他の仲間達も皆んな同様であった。


当然のことだ。

およそ七百年も続くこのclerの、古ぼけた戒律を今でも馬鹿正直に遵守しているのは、上聖職者達だけである。

それもほとんどが60を過ぎた年寄りばかりだった。



教皇室には大抵誰もいなかったから、仲間達は大人の目を盗んでよく出入りしていた。


そこにはとにかく沢山の本棚が並んでいるらしい。

どれもこれも天井まで届く高さだという。

一体何万冊の本が蔵されているのか、少年は知らなかった。

ともあれ他の仲間達は、専らそれらの書物を目当てに忍び込んでいる。

というのも、少年達を見下ろすようにそびえ立つその本棚には、大人達から直接教えてもらえなかった真理や物語が数多く綴られていたからだ。

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