序章 6
ーー思えば、何故自分はこんなふうに懸命に暗闇を這っているのだろう。
少年は力無く、上げかけていた額をもう一度地面に押し付けた。
生まれた時からずっと、教皇の言いつけを守って修練に励んできたのに、一体なぜ?
他の皆んなだって同じだ。
私達は、神に愛されたはずの「選ばれた者」ではなかったのか。
70年間に一度、cler内部で秘かに取り行われるコンクレンツァ。
その内容はコンクレンツァのその日まで、いかなる身分の聖職者にも、参加者の少年達にすらも一切明かされない。
それを知っている人間はただ一人。
つまり現教皇であった。
コンクレンツァの年に丁度15歳になる男子にのみ 、その参加資格は与えられる。
当然のことながら条件はこれだけではない。
もう1つの条件は、神から与えられた「力」を持つ「選ばれた者」であるということだ。
この「力」というのは本来、神に仕える聖職者として数十年間clerで祈り、働いて初めて神から授けられるものだとされている。
それを「選ばれたもの」は生まれながらにして既に会得しているのだ。
そういう赤子は、産み落とされた後すぐに母親から引き離され、上聖職者達に引き取られることになる。
35人の少年達は正にこの「選ばれた者」であった。
そして彼らに求められたのは、全く未知のものであるコンクレンツァを勝ち抜けるだけの、より洗練された「力」と精神力、そして何よりも知識を身に付けることだった。
それがすなわち修練である。
『あなた方35名は既にして時運を味方に付けているのですよ』
少年達を初めて見た上聖職者らは、そろってこう言い溜息を吐いたものだ。
『コンクレンツァの年に丁度15歳になるようにこの世に生を受けた。これを幸運と言わずして、一体何と言いましょうか』
暗闇の中、少年はぎりっと固く拳を握った。
何が「時運を味方にしている」だ。
生まれた時からずっと、狭いclerの奥で俗世から隔離され続けてきたことがか?
それも「力」を持っていたがために。
何が「幸運」だ。
仲間や自らの魂を貶めるような競争を強いられていることがか?
ふざけるなよ。
おまけに自分の一生の意味を見出そうとしていたその競争の内容までもが、こんな訳のわからないものだっただなんて...
コンクレンツァに敗れたら魂を失うだって?
嫌だ。そんなの絶対に嫌だ。
私はまだ死にたくない。
まだ真実も知らないまま魂を奪われるだなんてあんまりじゃないか。
そもそも、この何もない暗闇に打ち勝つことで他の34人と競い、コンクレンツァに勝利するなんて私などには到底無理だ。
そうだ、絶対に不可能なのだ。
だって私は仲間の誰よりも...
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