序章 5

以上がこの少年が持つ、こうして道を這うまでに至った記憶の全てである。


彼も例外なく巨大な穴に吸い込まれ、意識を失った。

そうして目を覚まし気が付いたのだ。


自分がこの暗く狭い道に倒れていることを。


あの時本当は何が起こったのか、彼には分からなかった。

あれからどれくらいの間道を這っているのかも、なぜ自分がこの道を進んでいるのかも分からない。


ただ1つだけ分かっていることはーーこの道の先には真実がある、ということだけである。



「はあっ...はあっ...」


少年は懸命に前へ前へと進んでいた。


回想をしている内に、いつのまにか自分の独り言が止まっていることにも気が付かないほど無我夢中で。



「っ、うわっ!?」


激しい呼吸を繰り返しながら這っていた彼であったが、突然何かに後ろから引っ張られ、思い切り地面にあごを打ち付けてしまった。


ゴンッと鈍い音が響く。


「...痛い」


うつ伏せになったまま、彼は口の中で呟いた。

手探りで自らの腰の辺りを調べる。


どうやら、トゥニカの緩みを締めている腰紐を自身の手のひらで押し付けてしまったらしい。


邪魔だ。


少年は舌打ちした。

この修道服を煩わしいと感じたのは、生まれて初めてかもしれない。



この空間には音というものが無い。

こうして自分があげた声や物音以外、何も聴こえない。


未だに消えないあごの痛みを感じながら、少年はゆっくりと顔を上げた。


不意に眼に涙がにじんだ。


「なぜこんなことになってしまったんだろうね、イザーク」


頭の中に思い浮かべていたはずの友人の姿も、いつの間にか消えていた。

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