古の聖なる幸譚

変太郎

サンタ・クロースの真実

小学六年生の僕は、もうサンタ・クロースなど当然信じていなかった。今日は12月24日土曜日。クリスマスイブだ。今は家に一人。父と母が珍しく夫婦で買い物に出かけたのは、僕へのクリスマスプレゼント、サンタからの贈り物という体のテレビゲームソフトを買いに行ったのだろう。今時の小学生は大人が思っている以上に精神面で早熟だ。インターネットでさまざまな人のエピソードや生活を知り、まるで実年齢より何年か多く生きたかのような脳内体験ができるからだ。

いつものようにゲームで半日を過ごし、少し疲れて夕方のバラエティー番組を観ていたら両親が帰ってきた。僕はプレゼントを貰う身として少しだけ忖度して、敢えて何を買ってきたか玄関に行って確認することはしなかった。しかし、その気遣いは両親の心を正確に推し量ることができていなかったようだ。

今夜は家族三人でクリスマスらしいご馳走を食べる。夕飯を終えた僕たちは、これからケーキを食べる。キッチンでケーキを切っている間、少々父と二人の時間ができる。

そこで予想外の出来事は起こった。

「毎年クリスマスプレゼントをお前にあげてたのはな、母さんなんだぞ」

「え!」

知ってはいたけど、そうではなく、その話をする父に驚いて声を上げる僕。

「サンタなんてもう信じてないだろ?俺たちだってそんなことはわかってるさ。自分達が子供の頃そうだったからな。でもさ、クリスマスって浪漫があるだろ?母さんはロマンチストだから大人になるまで打ち明けないつもりらしいが、俺は違う」

そう言うと、父は都市伝説の好きな僕に少し興味の湧く自論を展開し始めた。

「サンタ・クロースは今、絶対に存在しない。でもさ、架空の人物の名前が世界中に知られてるって不思議じゃないか?」

「そう言われてみれば……」

「だろ?だからさ、俺はこう思うんだ。遥か昔にサンタ・クロースはいた。そして、子供達に毎年プレゼントをくれる優しいおじさんのことを、誰かが広めていって、素晴らしい人格者だったサンタさんを、人々が忘れずに語り継いでいったってな!」

勝手な妄想でしかないのに、どこか自慢気な父と、意外にも聞き入ってしまっていた僕の元へ、母がケーキを運んでくる。

「なんか楽しそうね。どんな話してたの?」

「内緒」

僕と父は揃ってそう言う。

今夜は例年とは違った意味で、思い出に残りそうだ。

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