第83話「異常な漢字テスト」
首藤の言動は、どれもこれも常識を逸脱した
十二月半ばの国語の授業では、定例の漢字テストが行われた。
他生徒たちから離れた流刑地で、私はガムテープで頑丈に固定された椅子に座ってテストを受けた。
勉強熱心な母により、幼稚園に入る前から公文に通わされていたこともあり、小学校入学前からすでに漢字に親しんでいた。
四年生の時に、中学校卒業レベルとされる漢検三級に合格し、現在は高校在学レベルの準二級のテキストに取り掛かっている私にとって、学校で行う漢字テストは暇つぶし程度にしかならないものであった。今学年に入ってから実施されたものでいえば、一度だけケアレスミスをして満点を逃した以外は全て百点を取っていた。
学校の漢字テストは、「とめ・はね・はらい」などの細部にまで慎重を期して書かねばならないのはもちろん、そうしたポイントを押さえていても、少しばかり字のバランスが悪かったりすれば教師の気分や裁量により減点されるような理不尽なことも少なくないと公文のスタッフから聞かされていた。そのため、たとえ簡単な内容であっても気を抜かず、一画一画を丁寧に記して付け入る隙を与えないように心がけていた。私は、だから理不尽の塊とも言える首藤が相手であっても、漢字テストにおけるそのような減点はされたことがない。
月に二回実施される漢字テストは、普段ならば市販のテキストをそのまま印刷しただけという手抜き感満載の内容であるが、この時はなぜか、首藤が自身で考えたというオリジナルの問題を黒板に記し、それを生徒が白紙に書き写して解くという形式でなされた。
テキストの印刷作業さえも省いて手書き方式にするほうが手抜き感があるかもしれないが、その点については重要ではない。肝心なのは、彼が考えたという問題の内容だった。
今回のテストは、二十問の出題で一問につき五点、合計百点という形式である。
十問目までは取り立てて言うべきこともないような、まともな問題が並んでいた。
しかし、十一問目から首藤が徐々に本性を現しはじめ、たがが外れたかのような内容が飛び出した。先の数問を消した後に黒板に書かれた三つの問題――これはまだ序章に過ぎないのだが――に、私は
11.【きそく】を破った生徒にはお仕置きが必要だ。
12.先生の言うことを無視して聞かない生徒は【だん】じて許さん。
13.【しゅうだん】行動の取れない生徒は情けない。
生徒たちは皆、平然とした顔で必死に書き写しながら答えを考えているが、私はそれが信じられなかった。
これらの文章が問題文として異常だと感じるのに、十歳や十一歳という年齢は充分なのではなかろうか。こんな軍人の教訓のようなものをわざわざ生徒に書かせる教師が、いったいどこの世界に存在するというのだろう。
大いに驚きつつも、一応テストなので渋々問題文を書き写し、解答する。
大方、これも私への嫌がらせの一種なのだろうと思った。規則を破った覚えはないが、算数の時間にどれだけ言われてもノートをとらなかったり、あるいは学芸会に向けた居残り練習にクラスでただ一人参加しない私は、首藤から見れば確かに12や13のような生徒かも知れない。
そうだとしてもテストの問題としてふさわしくないことは明白だが、今さら彼の愚行に腹を立てても仕方なしと考えて無視しようと、この時は思っていた。
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