ぬくもりの向こう側

勝利だギューちゃん

第1話

「どうそ、どうぞ」

商店街で、サンタの格好をした女の子たちが、ちらしを配っていた。

殆どの人が、素通りする。


でも、僕はもらうようにしている。

受け取った時の、「ありがとうございます」が、嬉しいからだ。


その日ももらう事にして、ひとりの女の子からちらしをもらった。

「ありがとう」

その言葉が嬉しかった。


僕が年下とわかったのか?

「ございます」がなかった。


ちらしを見てみる。


えーと、

「あなたは、このちらしを受け取っていただいた、

とても、心の優しい方です。


そんなあなたに、私たちからのプレゼントです。


そなえつけのハガキに、ご希望の女の子の名前を書いて、投函してください。

抽選で、クリスマスイブの日に、5時間デートをします。


サンタガールプロジェクト」


なんだ、胡散臭いな。

ちらしをみると、20人くらいの女の子の写真があった。

その下には、誕生日、血液型など、プロフィールが掲載されていた。


風俗じゃ、あるまいし・・・


でもまあ、せっかくだから・・・

僕は、迷った末に、ひとりの女の子の名前を書いて、投函した。


書いた名前は、のぞみ。

一番気が合いそうだった。


まあ、外れるだろう。


で、クリスマスイブの午後6時に、ベルが鳴った。

「はーい」

ドアを開けると、そこにはひとりの女の子がいた。


「ご応募ありがとうございます。のぞみです。

抽選で、あなたが当選しました。おめでとうございます」

「あれ、本当だったんですか?

「はい。」

のぞみという女の子は、にこりと笑う。


サンタ服ではなく、年頃の女の子らしくおしゃれをしている。


「あのう、お名前は、山井勉くんで、いいんですよね」

「はい」

「じゃあ、出かけましょうか」

「どこへですか?」

「高級レストランで、夜景を見ながらのお食事です」

「えっ」

「今日だけとはいえ、恋人のイブの過ごし方です」

なんだか、わくわくしている。


「あのう」

「何ですか?勉くん」

「せっかくですが、お断りします」

僕の発言に、のぞみさんは、驚いていた。


「夜景を見ながらの、高級レストランで、シャンペンで乾杯・・・

僕には、性に合わないし、絵になりません。なので・・・」

「じゃあ、何がご希望ですか?今日はデートしないと、私が怒られます」

当然ながら、仕事だった。

まあ、その方が言いやすい。


「実はね・・・」

僕は、のぞみさんの耳元でつぶやく。


「あっ、それも私の希望でした」

「そうなんですか?」

「上司から言われてレストランにしましたが、私もそっちがいいです」

「じゃあ、そうしますか」


数時間後、僕とのぞみさんは、かに料理の店にいた。

ここは僕のいとこが切り盛りしているお店なので、すぐに入れた。


僕とのぞみさんは、カニ鍋を食べ中ら、差しつ差されつをしている。

いろいろな、会話をして、とても楽しい。

夜景なんてないが、ゆげの向こうの笑顔が、何よりも素敵だ。


神様、今夜は少しでも時間が遅くなりますように・・・

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ぬくもりの向こう側 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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