転生。

桧馨蕗

転生。

ぼんやりとした視界に君の泣きじゃくった顔が見える。



大丈夫だろうか。



君は。



自分がいなくなってもやって行けるのだろうか。



綺麗な顔をぐしゃぐしゃに崩して君が「逝かないでくれ、お願いだから逝かないでくれ」と言う。



君の綺麗な顔が台無しだ。お願いだから笑って欲しい。見送るなら笑って見送って欲しい。君にとってはとっても酷な事を言っているかもしれない。



それでも、自分は君の笑顔を見て最後に逝きたいのだ。



だから、笑って?



自分はそういった。



そして生を終える前に言ったのだ。



『自分は何度でも生まれ変わって君の前に現れる。だから笑って。自分は君を絶対に探し出す。そして会いにゆくよ。だから、自分が君を見つけるまで待っていてくれるかい?』



そして君は頷いたのだ。自分の手を強く握りこういったのだ。



『分かった。待ってる。ずっと待ってる。』



と、泣きじゃくりながら。



ーーーーーーーー



ピピピピッ、ピピピピッ.........



朝の訪れを告げる音がして目を開ける。

見えるのは見慣れた寝室の天井だ。何の変哲もない白い天井である。



時間を確認すると午前5時20分。まだ起きるのには早い時間である。



もう少し寝ているか。そう決めてベットに入り直したはいいが全く眠れない。



そういえば今日は自分が朝食を用意する日だ。



仕方ない。もう起きて掃除と朝食を作ってしまおう。そう決め直してベットから出る。



足の裏に感じる冷たさが冬真っ只中である事をつげる。



ああ、寒い。もう1枚着るべきだったか。



そんな事を思いつつ1階にあるキッチンに向かう。



朝食を作りながら今日見た夢のことを考える。



とても懐かしい夢だ。今となっては遥か昔の自分が最初の生を終える時の夢だ。



自分は最初の生を終える時、生まれ変わって会いにゆくと言った。



そして記憶を持ったまま生まれ変わった。



普通前世の記憶を失ってから生まれ変わるのではないのだろうか。しかし、自分の死ぬ前のあの想いが強かったのか、それともなにか別に原因があるのかは分からないが記憶を持ったまま生まれてきた。



時にはペット、子供、兄弟、親友、従兄弟、教師、生徒として。何度も転生した。



全ての記憶を持って。



あの人は毎回(自分もだが)、別の容姿に生まれてくる。自分は最初の生の時と似たような容姿に。あの人は、誰もが目を惹かれてしまう(しかし、やはり最初の生とは違う)容姿に産まれてくるのだ。



勿論、あの人には記憶はない。むしろ記憶のある自分が変なのだ。



自分は生まれてからあの人に会うまでずっと違和感を感じてしまう。



『なにかか足りない』と。



変なものだ。どうしても違和感を感じてしまう。そしてあの人と出会うとずっと無くしていたパズルのピースがカチッと嵌るように違和感がなくなってゆくのだ。



そんな転生にはある法則がある。それは、自分が必ず先に死んでしまう事とあの人とは決して結ばれる事はないという事だ。



そう、決して結ばれる事はない。別にそのことに対して思うことは無い。自分はあの人を支える事が出来れば良いのだから。



だが、そう思えるようになるのにかなりの時間がかかった。



何故?どうして?自分だけが苦しい思いをするのだろう?

何故あの人は自分に気づかない。何故おぼえていない。自分はこんなにも君の事を思っているのに。何故結ばれない。

転生しても尚、君の事をこんなにも思っているのに.........。好きで好きで愛おしくて堪らないのに。なぜ気づいてくれない。

自分はこんなにも君に気づいてくれないことで苦しい思いをしているのに何故君はのうのうと生きている。



辛い。



辛い。



辛い辛い辛い!



何故気づいてくれない!

何故自分だけが記憶を持って生まれてきてしまった!



何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故!!



何故、君は気づいてくれない!自分はこんなにも思っているのに!何故!



そう思ってしまったのだ。



しかし、今は今世が兄弟ということもあってただ支えたいという思いでいっぱいだ。



おっと、そんな事を考えているうちに朝食の西京焼きと味噌汁が完成した。



うん、いい味だ。

今の時刻は6時10分。そろそろ弟を起こす時間だ。



お玉とフライパンを持って2階に上がる。何故お玉とフライパンを持っていくのか。それは我が愛しき弟はとても寝起きが悪くどこぞの漫画のようにお玉とフライパンをカンカンさせながら声を掛けないと起きないのだ。



さて、



「起きてー!朝だよー!ほら、起きなって」



弟の耳元で声を掛けながら、お玉とフライパンをカンカンさせる。



カンカンカンカン!



「おーい、起きなー」



カンカンカンカンカンカンカンカンカン!

カンカンカンカンカンカンカンカン!

カンカンカンカンカンカンカン!

カンカンカンカンカンカン!

カンカンカンカンカン!

カンカンカンカン!

カンカン......。



カンカンすることおよそ15分。



「うん、うー.........」



弟が目を覚ました。



「おはよう」



笑顔で声をかけると弟は輝かんばかりの笑顔で



「おはよう、今日も大好き!」



と言いながら抱きついてくる。



これは兄弟だからこその距離である。正直得である。



「うん。おはよう。自分も大好きですよ。」



こうして今日も(転生99回目の)愛おしい君との平和な1日が始まるのだ。




〜完〜

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転生。 桧馨蕗 @hinokinokaori

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