第80話 帰還
思い出した。
ラモンとの再会を喜び合う前に、ザウロスの杖を燃やさなければ……。
しかし、それは間に合わなかった。
あっという間の事だった。
倒れているザウロスに異変が起こった。
杖もろともザラザラと音をたてて砂の塊に変わったのだ。
そして、突然に地下川原の中で突風が吹き荒れ、ザウロスだった砂は風に乗って舞い散った。砂は地下川の下流へ向けて飛び、跡形もなく消えてしまった。
「わしの杖を燃やすことはさせんぞ。
わしは力を蓄えて、きっと戻ってくる。
また会おう」
ザウロスの声が聞こえた後、辺りからザウロスの気配は消えてなくなった。
「完全に息の根を止めるには、杖を燃やす必要があったのか?」
ラモンが俺に聞いた。
「……ああ、実はそうなんだ。
そこまで出来なかったな。
杖を奪って燃やす暇などなかった」
俺は言った。
「ザウロスはいつかまた復活するかもしれんのか」
ラモンがつぶやいた。
「そうだな……」
「しばし休戦、ということか」
「ああ。でも、一戦目は俺達の勝ちさ」
ザウロスが倒れていた場所には、一枚の不気味な護符が残されていた。
どす黒く変色したその護符には、怪しげな印紋と、いにしえの言葉が書かれているようだったが、ほとんど読み取ることはできない。
護符をこのまま放置しておくことは適切でない気がしたので、俺は護符を拾い上げ、自分の背負い袋に入れ、持ち帰ることとした。
あらためて俺とラモンは、お互いに抱き合い、肩を叩き合った。
「良かった。きっと来てくれると思ってたよ」
俺は言った。
「追いついて良かった。
スナッタバットと一緒に川に落ちてよ、だいぶ流されたけど、どうにか岸に上がったんだ。
そして先に行ったあんたを追いかけて走ってきたんだ。
まさかこんな所にあんたとザウロスがいるとは思わなかったから、驚いたぜ」
扉が開く音がした。
マケラが小屋から出て来たのだ。
マケラは、俺とラモンを見て言った。
「プッピよ。ラモンよ。
助けてくれてありがとう」
マケラの目に精気が戻っている。
ボロ服に素足とみすぼらしい恰好であるものの、胸を張ってそこに立っているマケラの顔つきは、トンビ村の領主の威厳ある表情に戻っていた。
「マケラ様? 正気を取り戻された?」
俺は訊いた。
「ああ。おぬしのおかげだ。」
マケラが礼を言った。
「マケラ様! 生きておられたか」
ラモンが涙ぐんで言った。
再会の喜びと勝利の達成感を味わっている所に、遠くから三人を呼ぶ声が聞こえた。
聞き覚えのある声だった。
「おーい、俺のことを忘れてるだろう」
声の主はオルトガだった。
オルトガが、レッドアイとオークとの死闘を生き延び、俺達の後を追ってきていたのだった。
「レッドアイとオークをなんとかぶち殺して、扉を開けて階段を下りて、川原に出てからよ、あんたらが右に行ったのか、左に行ったのか、それとも川を渡って向こう岸に行ったのか、皆目わからず、彷徨ったのだが……。
会えて良かった」
オルトガが言った。
「あれ? まさか、俺抜きで、もうザウロスを倒しちまったのか?」
オルトガの体はボロボロだった。
服は破れ、血にまみれ、体中の至るところを火傷していた。
我々はあらためて、再会を喜び合った。
俺はオルトガを座らせ、怪我の応急処置をした。
そして四人で回復薬を分け合った。
我々は十分に休憩をとってから、巨大な地下迷路を出るために出発した。
帰り道も長い道のりだったが、多くを語るのは止めよう。
少なくとも、魔除けアプリの効果で、帰りは一度も魔物に遭遇せずにダイケイブを出ることができた。
マケラが村に戻ったことで、村中が歓喜した。
ノーラの嬉し涙が忘れられない。
涙といえば、俺の帰還を涙を流して喜んでくれたのはタリアだった。
ハリヤマは魔除けアプリが大活躍したことを喜んでいた。
ユキとは、相変わらず他愛のない会話で盛り上がった。
そうそう、猫のにぼしは、俺が帰還する一日前に、何事もなかったかのように俺の家にやって来て、ユキの膝の上で煮干しを美味そうに食べたそうだ。
(テストプレイヤー1 第一部 完)
テストプレイヤー1 [1] tmo @tmo
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