第4話 パンドラの箱
「さて、本当にどうしますこれ?」
リリアが机の上に置いてあるジュラルミンケースを見て誠司に問いかけた。
「まあ、受けちまったもんはしょうがない。兎に角アベルがまた回収に来るまで預かっておくしかないな」
誠司自身も受けたくはない依頼だったが、拒否権が無いのならばしょうがない。
もう受けるしかないのだと腹をくくり、誠司はジュラルミンケース持ち手を持って一つしかない部屋に持って行った。
部屋の中は散らかり様々なものが積み重なっている。
この部屋は、誠司の魔術研究する為の部屋となっており置いてあるものは製作した魔術道具や魔導書などが置いてあり、その中にポツンと椅子と机が置いてある。
勿論机の上も散らかっているが、周りよりかは片付いている。
その上にジュラルミンケールを置いた。
誠司はジュラルミンケースを見てアベルが去り際に言った言葉を思い出す。
あの言葉の意味を考えれば、この依頼は穏便には終わらないのだろう。
「厄介な事を持ち込んでくれたな」
そう悪態をついた。
―――――――――――
その日の夜、リリアはふと目が覚めた。
まだ春先なので少し肌寒い。
時計を見ると深夜一時だった。
「あれ?誠司さん」
誠司が寝ているベットを見るとそこに誠司はいなかった。
寝ぼけた頭で一瞬わからなかったが、すぐどこにいるのかが分かった。
「はぁ、仕方ありませんね」
リリアはそう言ってキッチンで二人分のココアを入れ、誠司がいるであろう部屋に入った。
ドアを開けて入ると案の定、机に座って何かしている誠司の後姿が見えた。
リリアの気配に気が付き、作業をやめ誠司が振り返る。
「悪い起こしたか?」
「いえ、たまたま目が覚めました。と言うか誠司さんまだ、起きてたんですか?程々にしないと体壊しますよ」
「もうそんな時間か」
リリアがココアが入ったマグカップを机の上に置く。
机の上を見ると案の定誠司がしていたのは魔術の研究だった。
魔術とは元々、神話や聖書に出てくる「真の奇跡」を再現する為に作られたものだ。術者の生命力を魔力に変換しそれをエネルギーとし、術式を組み上げ魔力でそれを実行し、現象を引き起こす。
魔術の性質上、魔術と宗教は深い関係にあり、大抵、魔術師は神話上の奇跡を自己解釈し、それを魔術に起こしたり魔術道具を製作する。
無論誠司のような宗教に頼らず、一から自分で術式を組み上げるものもいる。
魔術師の世界では一人で研究、改良、をできてこそ一人前とされており。誠司もこうして夜な夜な魔術の研鑽を積んでいた。
机の上には魔導書や術式の書かれた紙が乱雑に置いてある。
リリアは若干呆れながら誠司に言った。
「私の魔術師なので魔術の研究をするのは分かりますけど、そこまで切羽詰まってやる必要があるんでしょうか?だって誠司さんもう既に強いじゃないですか」
「いくら俺にはあれがあると言っても、あれに頼りきりにはなりたくはないんだよ。魔術師の強さは手札の強さじゃなくてどう手札を切るかの頭脳だからな。手札の質と数を上げることは悪い事じゃない」
「まあそうですけど、でもそれで体壊しちゃ元も子もないですからね。程々にしてくださいよ」
「わかってる。そうだな今日はもう寝るわ」
「添い寝してあげましょうか」
リリアが小悪魔的な笑みを浮かべ、いつものように誠司を誘惑する。
「阿保か。いいからこれ飲んだら寝るぞ」
そう言って誠司はリリアの入れてくれたココアに口を付けた。
ホッとするような甘みが口に広がった。
ある魔術師達の依頼書 黒幕 @mazinsan
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