第2話 ギルドの受付嬢さんが仲間になるまでのお話

 

 ガンツさんの店をあとにし、ギルドがあるという街の中心部へと足を運ぶ。

 大通りに出ると、むせ返る様な人の波に少し眩暈がしてしまう。

 脇には様々な露店が広がり、そこら中に活気が溢れているのが分かる。

 ガンツさんを見ても思ったが、やはりここは異世界のようだ。

 頭の上から獣耳を覗かせる獣人。耳が長く、スレンダーな体系をしたエルフ。ガンツさんと同じ、子供の様な背丈をしたドワーフ。

 ここには様々な人種が存在し、普通に生活を送っているようだ。


 俺は意を決してその人の流れに溶け込む。

 道行く人の服は茶系統の物が多いが、時折鎧を纏い物騒な物を腰に提げた強面の男性たちが目に入る。きっと彼らが、冒険者という人種なのだろう。あの中に今から入っていくのかと思うと、かなり胃が痛くなってくる。


 俺は手に持った小袋を、盗まれないようしっかり抱えながら移動し、やっとのことで冒険者ギルドまで辿り着いた。

 ふう、と息を吐き観音扉を開くと、中には先ほどの強面男性の様な男たちがゴロゴロたむろしていた。しかし思ったよりもギスギスしている訳ではなく、皆楽しそうに酒を飲んだり談笑したりしている。

 よく見れば、女性の冒険者も多いようだ。


 俺はその人ごみをかいくぐり、奥に並んでいる受付らしき場所まで進んだ。

 受け付けには五人の女性が並んでいて、それぞれ依頼の交渉やら情報提供やらを行っているようだ。

 俺が並んだのは、緑の綺麗な長髪のエルフさんが受付をしている列だ。

 どの列も大して変わりはなかったので、一番タイプな女性を選んでみました。


「お待たせしました。初めての方でいらっしゃいますね? 今日はどのようなご用件でしょうか」

「えと、ギルドの登録をお願いしに来たのですが……」


 エルフさんの爽やかな対応にたじろぎつつ、俺はなんとか要件を述べる。


「はい、ギルド登録の方ですね。初回の登録の際は、一〇万Gをいただいております。よろしいでしょうか?」

「あ、はい。……これでお願いします」


 言われた通り、大きな方の金貨を袋から取り出しエルフさんに差し出す。


「はい、確かに頂戴いたしました。ではまず貴方様の能力評価をいたしますので、こちらのプレートに触れていただけますか?」


 そう言って差し出されたのは、鼠色をした一枚のA四大の鉄のプレート。

 俺は訳の分からないまま、言われた通りに手を振れる。

 すると身体から何かが少し抜き取られ、プレートに文字が浮かび上がった。

 こちらから側からは見えないように工夫された構造であったが、俺だけには確認できるようそっとプレートを提示される。



 レアリティ:LR

 名前:ヤダトール ジョブ:補強士

 属性:無 ステータス評価:G



 今更ではあるが、なんで俺はここの言葉が分かるんだろう?

 文字にしても、普通に読むことが出来ている。

 明らかに日本語では無いのだが…… まぁ考えても仕方が無いか。


「……はい、確認いたしました。表記に問題はございません。しかし……」


 そこまで言ったところで、パタリと口を噤んでしまったエルフさん。

 そして何やら難しい顔をして黙り込んでしまった。

 するとそれを目敏く感じ取った隣の受付の猫耳女性が、何事かとエルフさんの手元をのぞき込む。

 

「え、ステータス評価G!? うっそ、この年で?」


 猫耳女性の良く通るソプラノボイスが、ギルド中に響き渡った。そして――


「ぎゃはははは! ありえねぇ! Gっておめぇ、成人したてのガキでももうちょっとマシな評価だしてるぜ?」

「よくそれで冒険者などになろうと思ったな。悪いことは言わん、やめておけ」

「おめぇ、優しいなぁ。まぁGじゃゴブリンすらやれねぇだろう。俺もこいつに同意だ」

「ぼくちゃーん、早くおうちに帰ってママのおっぱいでも吸ってなさーい」

 

 ギルド中から飛んでくる罵声の数々。

 中には本気で俺を気遣ってくれている人もいるみたいだが、大半は笑い物にしているだけだ。

 冒険者たちの反応を見て、やってしまったと口を噤む猫耳女性。

 エルフの受付嬢さんは彼女の方を冷たく睨んだ後、こちらに視線を移し申し訳なさそうに頭を下げた。


「ヤダトール様、大変申し訳ございません。冒険者の方の情報を漏らすなど、本来あってはならないこと。ここでは周りが煩うございますので、先ずは別室にてお話させていただいてもよろしいでしょうか?」

「あ、はい。よろしくお願いします」


 エルフさんのきちんとした対応に、俺は文句を言うタイミングを逃してただただ頷いてしまう。まぁ猫耳さんの言動には思う所満載だが、エルフさんはちゃんと黙っていてくれた訳だし。それに俺のステータスがGなのも事実。ここで俺がとやかく言うのは得策ではないだろう。


 俺は冒険者たちの冷やかしに見送られ、彼女と共にギルドの二階へと足を運ぶ。

 この建物は他の店などと比べて一回り大きく、階も四階建てと外から見てもかなり目立つ。二階に上がるとそこは意外と清潔感が保たれており、フロアの雑多な感じから一変、どこかの役所の様な雰囲気が感じられた。


 彼女に案内された一室にはそれなりに高価そうな机とソファーが並べられており、とても居心地の良い雰囲気になっていた。

 ソファーへと腰を掛けると、対面の彼女が改めて頭を下げて謝罪してくる。


 彼女はソフィエラさんと言い、このギルドの受付主任を任されているそうだ。

 彼女から猫耳女性を呼ぶかと聞かれたが、今は止めておいてもらうことにした。

 今彼女の顔を見れば、ムカついて色々と言ってしまいそうだったからな。

 どうやらソフィエラさんもその辺りを鑑みて、敢えて初めから同席させていなかったらしい。


「ミーシャ――先ほどの女性からは、また場を改めて謝罪をさせて頂きたいと考えております。ただ今回の件につきましては、彼女ではなく主に私がその責を負う形となる可能性が高うございます。その辺りについてご納得いただけますよう、お願いいたします」

「え? 彼女のミスではなく、あなたの、ですか?」


 予想外の言葉に、思わず声を漏らしてしまう。


「はい。そもそも冒険者の方には、特定の受付嬢が担当者として付く仕組みとなっております。今回の場合ですと、料金を頂戴し鑑定をさせて頂いた時点で、私がその担当者に該当致します。受付嬢の給金は歩合制となっていまして、担当する冒険者の方が活躍された場合、その一部が私どもの給金として振り込まれる形となっているのです。逆にこちらの不手際があった場合は、その担当者が責を負うことになっております」


 うーむ、それはシステムとしてどうなんだ?

 受付嬢にかなり不利な仕組みになっている気がしてならない。

 そのことを尋ねると、彼女は分かりやすく説明してくれた。

 

 先ず冒険者ギルドの受付嬢は、かなりの高給取りに当たるらしい。

 下手をすれば、上位の冒険者と同等以上に稼いでいるそうだ。

 これはこの街の富裕層の中でも上位に匹敵するらしく、いわば勝ち組と言って良いだろう。


 その一方で、受付嬢たちには担当した冒険者のリスクをマネジメントする義務が生じる。

 適切な依頼を紹介し、正確な情報を渡すことで、冒険者の命の危険を最小限に留めるのだ。

 これを怠っていた場合、その責任は全て受付嬢が負う形となる。

 なので彼女たちは日夜正確な情報の収集に励み、人によっては担当冒険者の健康管理まで行っている人もいるくらいだとか。


 逆に冒険者たちもこの仕組みについては理解しているので、自分の担当者以外に受付をしてもらおうとはなかなか思わない。というか、原則として担当者以外から依頼を受けることは出来ないそうだ。

 どうしても急ぎの用事でそれをする場合、全て冒険者側の自己責任となるそうだ。


「もちろん、ギルドから提出される情報にそもそもの誤りがあった場合は、ギルド自体が責任を負うこととなります。が、今回の場合ですと全て私の手元で起こったことですので、その責任も私に返ってくるのです。状況を鑑みればミーシャの責も大きいのですが、実は彼女は現在研修中でして、その教育係に私が付いておりまして…… そういう事情もあり、今回の件は私が主に責任を取る形となる可能性が高いのです。彼女にも減給等の処罰は行くかもしれませんが、その辺りについてご納得いただけますようお願いいたします」

「なるほど…… 因みにその責任って、どれくらいの物になりそうですか?」


 俺の質問に、ソフィエラさんは少し考え――


「良くて無期限の減給、悪ければ奴隷落ちの可能性もございます」


と、とんでもないことを言い出した。


「まさか!」

 

 思わぬ処遇の重さに、思わず声を荒げてしまう。

 しかし彼女は落ち着いた態度で返答してきた。


「通常であれば、罰金や一時的な減給が妥当でしょう。しかし今回の場合、ヤダトール様のステータス評価を鑑みるとこの情報漏洩はかなり悪質だと判断されるでしょう。そもそもステータス評価Gというのは、ご存知の通りかなり低い評価でございます。一般女性であっても、通常はF前後でございますので。ですから皆に情報が漏れた時点で、ヤダトール様とパーティー―共に依頼を受けるメンバー―を組む者は皆無でしょう。またその情報を聞きつけ、あなた様へ悪質な行為を働く者が出る可能性も高うございます。原則として冒険者同士の諍いにはギルドは不干渉でございますので…… 今回は、その行為を私どもが助長させてしまった形となるのです」


 確かに言われてみれば、その可能性は十分有り得るだろう。

 が、それだけでソフィエラさんが奴隷落ちする意味が分からない。


「また今回の件で尤も重要視されるのが、ヤダトール様のレアリティです」

「レアリティ、ですか……」


 確かに、俺のレアリティはLRだ。

 これがこの世界でも良い評価なのかは分からなかったが、彼女の反応を見るにかなり高い部類なのだろう。

 しかし先ほどの鑑定器具にもそのレアリティについては表示されていたが、彼女はひと言もそれには触れていなかった。だからてっきりあまり関係がない物と思っていたのだが……。


「レアリティについては、一般的にはあまり重要視されておりません。高レアリティでも、ステータス評価が低い方は多くいらっしゃいますので……」


 そう言いながら、俺を申し訳なさそうに見つめる彼女。

 確かに、俺の評価はGだしな。

 レアリティはこの世界では五段階に分けられていて、下からノーマルレアSRスーパーレアSSRスペシャルスーパーレアLRレジェンドレアと並んでいるらしい。

 これは生まれ付いた時には決まっており、大部分の人はNかRに収まっているようだ。

 レアリティはダンジョンを攻略することで稀に上がることがあるらしく、そうやってレアリティを上げた人は、結果的にステータス評価が高くなる。


 しかし、極稀に高レアリティとして生まれてくるものもいるらしい。

 生まれたばかりの赤子のステータス評価が高い訳は無く、冒険者などの荒事に就かない限り、EやFと言った一般的な評価のまま生涯を終えることになる。


 そのためレアリティだけではその人の強さは図れず、結果として強さに直結するステータス評価の方が重要視されているようだ。

 


「ただ、ギルドの幹部以上には、高レアリティの方を丁重に扱うよう国から内密に指示が届いております。場合によっては、国で保護する場合もあるほどなのです」

「なるほど……」


 まだ断定はできないが、ガンツさんの店で見たあのカードが関係しているのかもしれない。

 あれにはスキルやリーダー効果等が書かれていたが、鑑定プレートにはその表記が無かった。

 てっきりあれはただのおふざけかとも少し考えていたが、今の話を聞くに、かなり重要な物なのかもしれない。


「何故そのような指示が届いているのか、ご存知ではないのですか?」

「いえ、そこまでは…… 申し訳ありません」


 そう言って謝る彼女を見ながら、ふと気づいたことがある。


「その話、俺にしてしまって良かったんですか? 国からの内密な指示なんですよね」


 俺の言葉に、彼女の顔が今まで以上に真剣な物へと切り替わった。


「ここまで踏み込んでお伝えしたのには、実は訳がございます。正直なところを申しますと、今回の件、奴隷落ちは確実ではないかと私は予想しているのです。しかし私としましてもそれはどうしても避けたいところ。そこで、ヤダトール様にしたいことがございます」

「……聞きましょう」


 現在進行形で彼女が不正を行っているのは明らかだ。

 そこまでして彼女がしたいお願いとは、一体何なんだろう。


「私を、ヤダトール様の奴隷にしていただきたいのです」

「……ふぇ?」


 突拍子も無い言葉に、変な声が漏れた。


「申し訳ありません、少し焦ってしまい言葉が足りませんでした。奴隷と言いましても、専属契約、つまり秘書にしていただきたいのです」

「……すいません、実は俺、奴隷について詳しく無くて。説明していただいても?」


 もはや奴隷という単語が普通に飛び交っていることには突っ込ままい。

 彼女から奴隷について簡単に教えてもらった。

 そもそも奴隷とは、魔法契約によって大なり小なり行動を縛られた者の事を指す。

 正規の奴隷は犯罪奴隷と契約奴隷の二つに大別され、後者の契約には借金契約と専属契約いう二種類のものが存在するようだ。

 

 犯罪奴隷には人権がほとんど残されておらず、俺が持っている悪いイメージの奴隷そのもののようだ。

 鉱山で働かされる者や、戦争の戦闘に立たされる者。ダンジョン攻略の肉壁として使われる者や慰み者として手酷く扱われる者など様々みたいだな。


 一方契約奴隷の方は期限付きの雇用契約の様な物で、予め互いに契約内容を決め、その期限が終了するまでの間主人に仕える奴隷を指す。


 借金契約の契約期限については、借金の額とその返済能力を目安にすることが多く、借金が多い程長期に、返済能力が高いほど短期の契約となる。

 この返済能力には性的なことも含まれており、その行為を奴隷側が予め許容して契約していれば、期限はかなり短縮される。


 一方専属契約には厳密な契約期間は定められておらず、公的な第三者からの介入がない限りは解約されない。

 専属契約で結ばれる契約内容は基本的に禁足事項のみで、行動義務は含まれていない。つまり情報の漏洩や主人への意図的な加害等を魔法契約で厳重に禁止するだけだ。この契約は貴族やギルドのトップなどが秘書や専属のメイドを雇う際によく利用しており、専属契約を結んだ者であれば機密事項でも安心して仕事を任せられるなどの利点がある。

 しかし魔法契約は縛られる側の精神にかなりの負担が掛かるらしく、一生の内に何度も行えることではないらしい。そのため一度専属契約を結べば、何か特別な事情が無い限りはその契約を解除することは出来ない決まりになっているそうだ。


 つまり彼女は、俺にその専属契約の雇用主になって欲しいと言っているらしい。


「LRの方は、この国でも数人しかいらっしゃいません。その一人であるヤダトール様に対してこのような悪質な行為を許容してしまった責は、ギルドや国にかなり重く受け止められるでしょう。その結果、最悪犯罪奴隷に落とされる可能性も十分考えられるのです」


 国に数人……。

 LRという肩書は、俺の思っている以上に重いものだったようだ。

 俺がその事実に驚いている間にも、彼女は言葉を続ける。


「そこでそうなる前に、私と専属契約を結ぶことを予めヤダトール様よりギルドに申し出て頂き、犯罪奴隷へ落ちることを未然に防ぎたいと考えました。私が専属の秘書兼護衛となりヤダトール様の安全を確保すれば、今回の件についても罰は軽くなるでしょうし、そもそも専属契約自体が私に対する罰となるでしょう」


 確かに、俺のパーティーの問題が解決し、他の冒険者との諍いの可能性が低くなれば、今回の責任についてもかなり軽くなるだろう。それに彼女は人生で一・二度しか使えないカードを切ろうとしているのだ。十分すぎる罰になる可能性が高い。


「私はステータス評価Dとそれなりに高い自負はございます。また長年培った知識も、ヤダトール様のお役に立てることが出来るでしょう。どうか私めを、ヤダトール様の専属秘書にしていただくことは出来ないでしょうか?」


 そう言って縋ってくる彼女を、俺は慌てて引き離す。


「ま、待ってください! まだ奴隷落ちが確定したわけではありませんよね? 少し話が性急過ぎるのでは……」


 もしかしたら、減給のみで終わる可能性も有るのだ。

 いきなり専属にしてくれなんて、いくら何でも性急すぎる。

 しかし彼女は残念そうに首を横に振る。


「この件が上層に伝わってしまえば、私の手からは完全に離れてしまい、後は結果を待つのみとなってしまいます。そのような博打、私は到底打つ気にはなれません。であれば、予め安全策を取っておきたいのです」


 そう言って、真剣にこちらを見つめてくる彼女。

 確かに、彼女の言い分も分かるのだが……。


「逆に、俺が全て許すといえば済む話ではないのですか?」

「いいえ、それではギルドからヤダトール様に何かしらの圧力が掛ったのではと風評が広がってしまいかねません。既に今回の件については、多くの方に知られるところとなっておりますので…… ですので例えヤダトール様がお許ししたとしても、何かしらの処罰は必ず下ることになります。そしてその結果ヤダトール様の身に先ほど申し上げた不利益が降りかかれば、結果として再度私が処罰の対象となってしまうでしょう。それらも含めて、予め手を打っておきたいのです」


 彼女の話には説得力があり、この世界の仕組みについて詳しく知らない俺には反論の仕様が無くなってしまった。

 俺は一つため息を付いた後、彼女に向き直る。


「分かりました。その話、お受けしましょう。ただし、俺のパーティーメンバーや他の冒険者たちとのトラブルについて他に手立てがある場合は、それを対価として今回の事について全て水に流すという事にさせて頂きます。それでいいですね?」


 結局の所、俺の安全さえ確保できれば話は丸く収まるはずだ。

 その結果、国に保護されるなどという話に飛躍する可能性も有りそうだが……まぁその時はその時だろう。

 彼女の話を聞く限り、粗末に扱われることは無さそうだしな。


「はい、それでようございます。我儘を受け入れて下さり、本当にありがとうございます」


 そう言って、再度頭を下げる彼女。

 恐らくこれが、彼女の持っていきたかった着地点なのだろう。

 よく見れば、彼女の手が少し震えている。

 まぁそれはそうか。もしこの密談について俺が外に漏らせば、彼女は間違いなく犯罪奴隷行きだ。

 博打が嫌と言いつつも、実は彼女、結構な博打打ちなのかもしれないな。


 その後俺は彼女と共にこのギルドのトップであるギルドマスターの下へと案内され、先ほどの話を彼に申し出た。

 ギルドマスターはゴルバドさんと言う五〇代くらいの強面の男性で、スキンヘッドに筋肉ダルマといかにもな感じな雰囲気の人だった。

 彼は俺の申し出を聞き、ソフィエラさんから何か助言があったのではないかと疑ってはいる雰囲気ではあったが、敢えて目を瞑り俺に頭を下げてきた。


「寛大な対処、感謝する。俺もソフィエラとは長くてな、こいつが犯罪奴隷になっちまうのは流石に心が痛んじまう。今回の件については、俺の方から上手く領主様に伝えておこう。お前さんの所にも何かしら連絡がいくかもしれないが、まぁ悪い様にはならんはずだ。ここの領主様は話の分かる方なんでな」


 そういってニッコリと笑う彼の顔は、どう見ても悪役にしか見えなかった。

 それにしても、冒険者登録をしに来ただけのはずが、えらく話が大きくなってしまったものだ。

 ……まぁいいか、取り敢えずこれで俺の安全も確保できそうだしな。

 領主様だとか話がどんどんと大きくなっている気もするが……今更だな。

 先の事はまたその時考えるとして、取り敢えず今日はもうさっさと寝てしまいたい。

 どこかいい宿屋があればいいのだが……。


「事が片付くまでは、俺の邸に来ると良い。なぁに、部屋はいくらでも空いているから心配すんな。それにお前さんについて、聞きたいことも沢山あるしな」


 宿は速攻で見つかったが、同時に俺に迫る貞操の危機。

 天国のお父さん、お母さん、僕は今日、大人の階段を昇ってしまうかもしれません。


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