レジェンドレアで異世界無双~ファンタジーな世界だけど、俺はソシャゲルールでやらせてもらいますね?~

@ariyoshiakira

第1話 普通のサラリーマンが異世界に転移するお話




「今度こそ、今度こそ来いっ、俺のLRレジェンドレアカード!」


 会社の帰り道、携帯電話を片手に必死に祈る一人の男性。

 矢田徹、二五歳会社員。

 つまりは俺だ。


 今巷で人気のソーシャルゲーム、【アドベンチャーズ】。

 そのキャラクターガチャの為に先ほど課金を行い、高レアリティのキャラクターを引けるよう、こうして祈りを捧げている所だ。


「もう今月はカップラーメンの日々が決定しているんだ。どうか、どうかお願いします」


 今回一押しの期間限定キャラクター、LRレジェンドレアカード【白銀のレオナ】を引きたいがために、幾度となくコンビニに足を運びTtuneカードを購入した。

 しかし結局一度も引けず、もうすぐその排出期間が終わろうとしている。


「この銀髪ケモミミ娘をどうか、どうか俺に下さい神様、お願いします……」


 白銀色の髪に蒼い瞳をした狼獣人のキャラクター、レオナ。

 この、俺のタイプドストライクのキャラクターがどうしても引きたくて、ただでさえ少ない俺の貯金がとうとう底をついてしまった。


「俺はやれる、やれる男だ!」


 そう自分に言い聞かせ、意を決して携帯電話の画面をタップする。

 俺の指に反応して、画面中央に待機していた受付のお姉さんが奥の部屋へと消えていく。

 こうやって新しいキャラクターを呼びに向かう演出なのだ。

 彼女の後ろを追うようにして、映像が次々に移り変わる。

一つ一つ扉を開き、奥へ奥へと進んでいくお姉さん。

 始めは茶色い木の扉だったものが、銀に変わり、金に変わり、そして――


「おおっ! 虹色扉っ! き、キタ――ッ‼」


 LR確定の演出、虹色扉。遂に、遂にレオナたんが俺の下に……

 携帯画面から発せられる、眩い光。

 これが収まれば、いよいよレオナたんとのお目見えだ。

 が、光が中々収まらない。寧ろどんどん光量を増していき――


「……おいおいなんだこれ。バグか? マジで勘弁し――」


と言い終わることなく、俺は携帯画面から発せられる眩い光に包まれて、意識を失ってしまった。




◇🔶◇🔶




 温かい陽気に包まれて、意識が徐々に覚醒していく。

 こんな気持ちの良い朝はいつ振りだろうか。

 毎日毎日寝不足の日々を過ごして――


「おいてめぇっ! なぁに人の店の前でスヤスヤ寝てやがんだっ! さっさと起きろこの野郎っ‼」


 突然の野太いガラ声に、快適な眠気が吹っ飛ぶ。

 ハッと目を開くと、視界の中には毛むくじゃらのおっさんが。


「へ? ……は?」

「へ? じゃねぇわ馬鹿野郎! 起きたんならさっさとどきやがれ‼」

「は、はいっ! すいません……」


 おっさんの怒鳴り声に、思考よりも先に身体が反応してしまう。

 俺はさっさと身体を起こし、おっさんに頭を下げて謝罪する。

 ……が、よく見ればそのおっさん、えらく身長が低い。

 俺の胸元までしか無い背丈。髭を豊満に蓄えた顔。そしてどんな重量の物でも持ち上げてしまいそうな、ぶっとい体躯。

 そうまるで……


「……ドワーフ?」

「あぁん? なんだぁてめぇ、亜人差別者かこの野郎。いいぜぇその喧嘩……買ってやろうじゃねぇか」


 俺の呟きにギロリとこちらを睨みつけて、丸太の様な腕を見せつけてくるおっさん。


「い、いえっ、滅相も無い! ただビックリして呟いただけで……」

「はぁん? ビックリっててめぇ、俺の顔がそんな驚くような形をしてるとでも言いてぇのかぁ? あぁん?」

「いや、そういう事ではなく……」


 第一印象が悪すぎたせいか、何を言っても逆効果にしかなりそうにない。

 とにかく誤解を解いて、この訳の分からない現状をどうにかしなければ。

 

「実は俺、ドワーフの方を始めて見まして。驚いたのは貴方にではなく、ドワーフという存在そのものににたいしてで。因みになんでこんな場所に寝ていたのかもわかりませんし、ましてやあなたの店の前だとは全く知りませんで……すいません」


 まくし立てて正直に言ってはみたものの、自分で言っていても胡散臭い気がしてきて思わず謝ってしまう。

 そんな俺を腕を組みながら睨みつけ、頭の上から足元までじっくりと視線を往復させるドワーフ。そして、はぁとため息を一つつき口を開いた。


「……事情は知らねぇが、おめぇさんも戸惑っていることは理解した。それにその見たこともねぇ服装……とりあえず、家にあがんな。話ぐらいは聞いてやる」

「……へ?」


 おっさんの思わぬ言葉に、口から情けない声が出た。


「え、でも、見ず知らずの人をそんな簡単に……」

「てめぇは女みてぇなこと言うのな。おめぇさんみてぇにひょろっちぃ奴に同行される俺じゃねぇっつんだ。いいからさっさと来い!」


 右手をガシッと掴まれて、店の中へと引っ張り込まれる。

 慌てて足を動かし、為すがままにされてしまう。

 そのままカウンターの奥へと進み、鍛冶場と思われる場所へと連れ込まれた。


「んで? おめぇさんは何もんだ? 服装はやけに仕立てが良いが、そのへこへこした頭は貴族のそれじゃねぇ。かと言って、商人みてぇに人を舐めた目もしてねぇ。俺にはおめぇさんが、まるでこの街から一人浮いているように見えちまう。おめぇさん、どこから来たんだ?」


 先ほどとは打って変わり、真剣な声で俺を分析するドワーフ。

 改めて周囲に目をやると、辺りには剣やら斧やら、物騒な物が至る所に転がっている。

 目の前のドワーフの事も鑑みて、ここが日本ということは無いだろう。


「実は俺、日本という国に住んでまして。仕事の帰りに急に光に包まれて、気づけばここにいて…… 念のため聞きますけど、ここって日本じゃないですよね?」

「……違ぇな。ファミリア王国のファイスって街だ。因みにニホンなんて国、俺は聞いたこともねぇ」

「そうですか……」


 やはり、日本では無いらしい。そもそも聞いたことすら無い国名だ。

 しかもドワーフが普通に存在している時点で色々とおかしい。


「因みになんですが、違う世界から人がやってきたりすることとかあります?」

「はぁ? なんだそれ。別の国からはそりゃ時々商人はくるけどよ」

「いえ、そういう事ではなく……いや、変なことを聞いてすいません。気にしないでください」


 前例がないのであれば、異世界などと言われても困るだけだろう。

 とりあえず、現状の確認が先だ。


 俺は彼から色々と話を聞きだし、ここが日本、というよりも地球ですらないことを確信した。

 この世界には魔法が存在し、魔物というモンスターや、ダンジョンと呼ばれる魔物が跋扈する地下迷宮が存在するらしい。人々は魔物から身を守るために街の周りに高い塀を造り、その中で生活している。

 彼はガンツさんといい、この鍛冶場で魔物を退治するための武器や防具を作って売っているそうだ。


「とりあえずお前さんが訳の分からねぇ状態だってことは分かった。お前さん自身も分かってねぇみてぇだし、まぁそれは仕方が無ぇ。んで? これからどうするつもりなんだ?」

「どうするって言われても……」


 正直まだ思考が追い付いていない。だってそうだろう、ガチャでLRを引いたと思ったらいきなり光に包まれて――ん? LR?


「……レオナたん」


 そう言えば俺のレオナたんはどうなったんだ!?

 慌ててスーツのポケットをまさぐってみるが、俺の携帯は見つからない。

 それどころか、財布を始めとした俺の私物が全て消えている。

 

「……ん? なんだこれ……」


 ポケットをまさぐっていると、中に一枚だけ四角いカードが入っていた。

 昔流行ったトレーディングカードの様なそのモチーフ。カードの上部には絵柄が描かれており、下半分にはその能力が書かれている。

 というかこの絵柄――


「俺じゃねぇか……」


 何故か描かれていたのは、俺が入社時に撮った履歴書用の写真そのもの。

 まだ社会の恐さをしらない、無垢な状態の……ってそうじゃなく。


「なんで俺がカードになってんだよ。しかもLRて……」



LRレジェンドレア 【ヤダトール・補強士・無】

LPライフポイント:G ATアタック:G DFディフェンス:G SPスピード:G


リーダー効果 【補強します!】

≪自分を除くPMパーティーメンバーの全能力を三段階上昇≫


ファーストスキル【修理します!】 CTコスト:金貨一枚

≪自分を除くPM一人のLPを三割回復≫


セカンドスキル【改造します!】 CT:大金貨一枚

≪自分を除くPM一人のATとSPを一分間のみ二段階上昇

 その後一〇分間LPを除く全能力が三段階低下≫


ラストスキル【やばいやばいやばい】 CT:白金貨一枚

≪PMの死亡時、LPが一割の状態で蘇生≫



 俺の名前と写真の他にも、様々な情報が書き込まれていた。

 レアリティに合わせてか、証明写真の背景がやけにキラキラしているのが腹立たしい。

 それに効果やスキルはともかくとして、能力が全部Gて。これってもしかして、グレイトのGだったり……しないか。


「なんだぁおめぇさん、さっきからコロコロと変な顔しやがって。頭イカレちまったんじゃねぇだろうな?」

「いえ、何と言いますか、只々疲れてしまったとしか……」


 訳が分からなさ過ぎて、俺の頭はオーバーヒート寸前だ。

 取り敢えず、もう一度寝てしまいたい。


「なんだそりゃ。……おめぇさん、金は持ってんのか?」

「いえ……情けながら一文無しみたいです」

「んなこったろうと思ったぜ。取り敢えずおめぇさんの服を担保に、俺が金を貸してやる。代わりの服は鎧下を適当に見繕ってやるから、それでどうにか働き口を探してみろ。つっても、身元の怪しい奴を雇ってくれるところなんて早々ねぇだろう。なんでまぁ取り敢えずは冒険者ギルドに行ってみるんだな。あそこなら身元不明の奴でも、金さえ払えば取り敢えずは身分を保証してくれるだろうからよ」

「はぁ、何と言うか……何から何までありがとうございます」


 冒険者、冒険者かぁ……。

 聞けば冒険者とは、魔物を討伐してその素材を売り、生計を立てている者たちのことを指すらしい。彼らは冒険者ギルドという組合に皆登録していて、そのギルドを通して依頼やらなんやらを熟しているそうだ。

 今の俺は確かに身元不明の浮浪者だ。そんな俺が就ける仕事はそれくらいしか無いんだそうな。


 ガンツさんの所でお世話になりたい、という言葉を口にしようとして、やめた。 

 ここまで良くしてくれたんだ。これ以上無理を言ってはいけないだろう。

 俺はガンツさんから金と服、それから近くにあったショートソードを受け取り、着ていたスーツを彼に渡す。

 金は小袋の中に入っていて、中には大小の金貨がゴロゴロと入っていた。


「全部で五〇万ゴル入ってる。大きい方が一枚一〇万Gで、小さい方は一万Gだ。相場は宿で一泊すんなら、大体数千Gってとこだな」


 なるほど、G=円と思ってとりあえずは良さそうだ。

 それにしても、ただのスーツに五〇万円はもらい過ぎな気がする。


「何言ってんだバカ野郎。こんな仕立ての良い服、普通に買ったら最低でもその倍はするわ。これは担保として預かっておくだけだから、稼ぎが安定したらちゃんと取りにくるんだぞ?」


 どうやら俺が返済しにくることを見越して、安く値段を設定してくれていたようだ。

 急に訳の分からない世界に飛ばされて混乱していたが、最初に出会った存在が彼で良かったと心から感じた。


「じゃぁ、行ってきます。あ、そうだ。俺、徹って言います。このお金と剣と服、必ず返しに来ますんで」

「おう、頑張れよトール。期待せずに待ってるからよ!」


 彼に背中を叩かれながら、大通りへと足を進める。

 まだまだ不安は残っているが、取り敢えず出来ることをやってみるとしよう。



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