【第6話】日常i

「うぅ、今日も寒いなぁ…」

 …まったく、真也の言う通りである。



 11月20日。

 まだ本格的に寒くなる12月前だと言うのに頬をふきつける風は冷たく、登校をさらに苦痛へと変化させる。

 少なくとも寒がりの自分は寒さに苦言を呈する他なかった。


「本当だよ…寒すぎる…家のこたつが待ち遠しい…」

「え、亮くんちコタツあるんだいいなぁ…」

「そのまま寝れるしいいぞ、これ~」

「人をダメにするソファ並にいいよねぇ」


 くだらない言い合い。

 思いついた話題のキャッチボール。

 これらの話題は意外にも足を進める促進力となる。


「そういえば三月くん放送部の賞状無くしちゃったらしいよ…」

「え、うそだろ!?あんなにあいつ嬉しがってたのに…」

「下校時間知らせるアナウンスの言い方面白いよねぇ」

「そうそう、『れでぃーすえーんどっじぇんとるめぇーん、皆様、私平野三月が下校時間をお知らせ致しまーすっお気をつけておかえりくださーっい!』てな感じでな」

「亮くん似とるっ」


 ───────────────────


「亮~昼飯買いにいこうぜぇ~」

 昼休み、方を叩いてきたのは三月だった。

「おぉ、丁度今行くとこだった、行こうぜぇ」

「今日こそ手に入れてやるぜっ!幻のヒレカツサンド!!!」

「先取ったもん勝ちな」

「おうよっっ」


 ───────────────────


 数学の時間。


「亮君、さっきの授業のプリント見せてもらえませんか?三月君が邪魔してきて聞き逃してしまいました…」

「あぁ、いいぞこれだっけ?」

「そう、これこれ、ありがとう」


 そう言うと望は自分の席へと戻っていった。


 ───────────────────


「亮~まったく描写がうかばないよぉ~ぁぁぁぁあああ!」

「あぁあ、うるさいうるさい、騒ぐな!」



 殆ど何も変わらないような本日の学校も無事終了し、ようやくの放課後。

 隣の騒がしい真白を除けばこの空間は至って平和なのだが少しだけ今日は変化があった。

 なんと久々に文芸部の天使、瑠衣先輩が部室に顔を出したのである。

 今は共に顔を出した心先輩と音子と何やら話していた。


「ちょっと、おーい、何先輩の方見てニヤついてんのー」

「いてててっ、やめろっ!」


 先程から何故か真白が自分の頬をぐりぐりと抓っている。

 痛い。すごく痛い。

 先輩から目を離し、今度は真白の方に目を向けると、とんがった目でこちらを睨みつけていた。





「な…なんだよ…」


 真白はそっぽを向き、ぼそぼそと呟いた。


「もしかしてさー、亮って瑠衣先輩みたいな人好きなの?」




 …胸がチクッとした。

 罪悪感のような感情と焦燥感。

 まぁ、特別に変な感情を持ってるはずないとは思うのだがつい先輩がいると目が奪われてしまう。…。


「え、いや別に…」


「はーぁ…さいですかー」


 何やら頬を膨らませ、向こうを向く彼女。

 彼女が何故そんな質問をしたのかはわからない。


 ただその質問に答えた時の感情にはどこか酸っぱさの他に…苦味も感じた。



 水筒のお茶を1口含み、あたりを見渡す。

 瑠衣先輩はどうやら帰ってしまったのか姿は見えず、心先輩と音子の笑い声が響いていた。



 一方、真っ黒に染められているような外は、どんよりとした雲がしとしと…と泣くような雨を降らせていた。

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本の中の君は 椛葉優月 @yuuki0418

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