"面白い"ための要素を全て持っている作品

テーマとしては、よくある「こうなればよかったのに」系の作品だと思う。救われぬ物語に救いの手を。わかりやすく読み手に満足感を抱かせるテーマだけれど、だからこそ真に「面白い」と評されるには高いハードルを乗り越えなければならない。
この作品は、そのハードルを確かに乗り越えた良作だ。
まず、起承転結がひたすらわかりやすい。少しだけネタバレが入ることになるが、地上に唯一実在する天使として目覚めた元現代日本人の主人公が、周りの人間と関わるうち、天使としてオリジナルの物語を織り成しながらも、自然と歴史と同じ道を作っていくことになる起承。明確に改善されてはいるけれど、それでも止められなかった負の側面が溢れ出し、その解決に当たる主人公の焦りと活躍を描いた、幕引きにいたるまでの転結。全てがわかりやすい。とても綺麗にまとまっていて、計算され尽くした、と評せるくらいだ。
史実への介入という点から我々は元々の物語がどう終わるかを知っている。そして全体的にハッピーな雰囲気を感じながらも、結末を知らないために「今は良さげだが最後はどうなってしまうのだろう」とドキドキしながら読み進める、いわば「見える伏線」のようなエッセンスになっている。主人公の手を離れ最悪の結末に向かいつつある展開と、事態に気づいた主人公の焦りの描写は、適度な文量ながらも簡潔にまとまり、緊張感を失わせない素晴らしいものだ。
また「かの時代のフランスに実在する天使として舞い降りた」という、シンプルに面白そうだと思える設定も冒頭に述べた要素のひとつだろう。シンプルゆえキャッチーかつ扱いの難しいこの設定を、持ち味を存分に活かして描ききり見事"面白さ"として完成させている。
"面白い"の要件は人それぞれだろうが、"面白い"をどう魅せるかは作者の技量によるところが大きい。
この作品は日記形式で綴られ、俗に言う「なろう系」でよく見られる「淡々と語られる、読み手の誰もが満足感を覚えるような、異世界(現代地球とは違う世界)での成功譚」ではあるものの、その描写の上手さ(これは各場面への描写量の適切な配分など、技術面全体への評価だ)と構成の丁寧さによって、「王道の面白さ」として受け止められるものとして出来上がっている。
流行るジャンルは面白いと思える持ち味があるからこそ流行るのだ。作者の技量にひたすら脱帽である。

蛇足かもしれないが、作者様は小説家になろうでも作品を投稿されている。そちらの面白さには度肝を抜かれるものがあるので、この作品に惚れたなら飛んでいく価値は大いにあるだろう。
他サイトへの誘導となりカクヨム様には申し訳ないので、最後に作者様の作品がカクヨムにおいても広く読まれ、このサイトの活性化に繋がることを祈念しておく。