最終話 春夏秋冬

 目が醒めると朝だった。慌てて君の家に向かう。


 ピンポーン……


 ガチャ


「どちら様で?」


「お母様、久しぶりです……香奈はいますか?」


「あなた、何を言ってるの?」


 えっ


 お か あ さ ま


 あなたが何を言っているのだ?


「あなたの後ろにいるじゃない」


「わっっ!!」


「おおっ!! びっくりしたっ!! おい香奈、驚かせるなよっ」


「ふふっ。引っかかった!」


「ああ、引っかかったよ。まんまと」


 無邪気に笑う君がいた。僕がずっと探してた香奈だった。


 よ

 う

 や

 く

 僕

 は

 悪

 夢

 か

 ら

 醒

 め

 た

 よ

 う

 だ


「ねぇ……今日はどこに行く?」


「そうだなあ。香奈はどこへ行きたい?」


「桜、見に行きたい!」


「却下」


「じゃあ海!」


「却下」


「もうこのケチっっ!! じゃあさ……なんか食べに行こうよ……そぅだな、気分的に」


「パスタとか食べたくない?」


「私もそう思う!! やっぱり私たち……」


「「気が合うね!!」」



 ……



 君は知らないだろう。僕が春夏秋冬、あらゆる世界を旅したことを。そして全ての世界で君と向き合ったことを。


 狂う君と一緒に死んであげて


 骨になっても君を強く抱きしめて


 墓の前で小さく泣いてしまったよ


 そして冬には温もりを運んであげるから


 僕は今日も目の前の君を愛すよ。

 明日も明後日もずっと……。やっぱりどんな君よりも、目の前の君が好きだから。



 * *



 君は僕がどういう人間か知らないのだ。


 君はこの世界がどういう形か知らないのだ。


 何も知らないくせに何を語りたがる。


 ああ、でもね今日は一人じゃないから。

 ああ、今日は君に会いたいから。


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春夏秋冬 またたび @Ryuto52

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