第115話 待ち人

 クディルが去った後、リックス少将とマルスが見舞いに来てくれた。リックス少将は、メレンケリの体や心の心配をしながら、事の次第をマルスから報告されたと言った。


 「大変だったね」とリックス少将は言ってくれたのだが、メレンケリは彼の話を半分程度しか聞いていなかった。それよりも、自分と会いたくないと言っていたグイファスが、今回の件で自分を心配してくれていたことが嬉しくて、本当かどうかを知りたくてたまらなかったのである。


 ――マルスに聞いてみようか。


 そんなことをリックス少将が話している最中に考えていた。すると、リックス少将は彼女の上の空の様子に気が付き、話をぴたりと止めた。


「リックス少将?」

 マルスが上司である彼の名を呼ぶと、少将は困った顔に笑みを浮かべてマルスに言った。

「マルス、出直そうか」

「え?」

 すると急に我に返ったメレンケリは、椅子から立ち上がるリックス少将を見て動揺した。

「あ、あれ?リックス少将、もう行かれるのですか?」

「何か、君が思い悩んでいるみたいだからね」

「あ、いえ、そんなことは……」

 慌てふためくメレンケリを見て、少将はくすっと笑った。

「悩みはあるみたいだけど、どうやら元気がでたみたいだ。だけど、今の君に仕事の話はできないな」

「どうしてですか……」

 不安げな顔をするメレンケリに、リックス少将はマルスを促しつつ、部屋を出ていく際にこう言った。

「朝になったらまた来るよ。仕事の話はそのときに。それまでゆっくり体を休めるんだよ。それじゃ」

「あのっ……」

 メレンケリが引き留める間もなく、リックス少将たちは出て行ってしまう。

「……」

 メレンケリは静かになった部屋で、のそのそとベッドの中に戻ることにした。リックス少将に休めと言われたので、そうするつもりで眠ろうとしたが、頭は冴えて眠れない。


 すると、その時だった。部屋のドアがノックされる。


「はい?」

 返事をすると、使用人の女性の声が聞こえた。メレンケリが奥まった寝室にいるので、誰かが彼女の部屋に入るときは、取次をしてくれているのだ。

「すみません、アージェ様。ご面会は可能でしょうか?」

「どうしたのですか?」

「ライファ様がお会いしたいと申しているのですが……」

 その名前に、メレンケリは眉を上げ、目を見開いた。

「グイファスが?」

「はい。ただ、今も面会があったばかりですし、無理そうであればお断りしますが――」

 使用人がそう言いかけると、メレンケリはすぐに返事をした。


「いいえ、構いません。通してください」

 メレンケリはそろそろとベッドから体を起こすと、グイファスが部屋に来るのを待った。

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