第114話 一人ではない
クディルはメレンケリに、大蛇の地下の寝床であったことを話した。
メデゥーサ・アージェは大蛇であったこと。彼女は大蛇として復活するために、メレンケリに近づいたこと。大蛇は呪術師の呪具を集め、元々『大地の神』から生まれ出たメレンケリの右手の力と共鳴させ、復活するための力を手に入れたこと。そしてそのとき出た禍々しい光によって、メレンケリがかすり傷だらけになったこと、などである。
「私の力が、大蛇を復活させることになったのですか?」
眉間にしわを寄せるメレンケリに、クディルは言葉を付け足した。
「先程も説明しましたが、メレンケリさんの力は元々『大地の神』の力の影響を受けて生まれたものです。以前、私の母も説明したと思いますが、『大地の神』は人々の感情を『種』とし、善悪を考えずに力を与えるという性質を持っています。今回、大蛇が集めていた呪術師の呪具の共鳴もあり、『大地の神』の力をその身に宿したメレンケリさんの感情を鋭敏に感じ取り、大蛇にとって都合のいい力に変換されてしまったということです。これは、私も私の母も予想していないことでした。事前にお知らせできず、申し訳ありません」
「えっと、あの……クディルさんが謝ることではありません」
メレンケリは自身の右手を胸に当て、ぎゅっと握った。
「そういうことではなくて……私の力はやはり誰かを不幸にするためにしか存在できないのかなと……、そう思っただけなんです」
するとクディルは首を横に振り、それを否定する。
「確かに、あなたの力は大蛇の味方にもなり得ましたが、大蛇を葬り去る力ともなり得るのも事実です。あなたのその力が、大蛇と対抗できうるのは間違いないのです」
「そうですか……」
メレンケリは力なく頷いたが、クディルは何度か躊躇ったのち、今後の予定を彼女に伝えた。
「それから大蛇には『大地の神』がいた、神聖なる森へ来いと言われました。明晩、決戦になります」
「神聖なる森?」
クディルは頷いた。
「すべてが始まった場所です。メデゥーサ・アージェさんが、グレイ・ミュゲとなり、ラクト・アージェさんが右手にその力を受けたという場所です」
「……」
メレンケリはクディルから自分の右手に視線を落とした。握っていた右手をそっと開く。とうとうついに、本当の戦いが始まるのだと思った。
メレンケリは下唇を噛んで、ぐっと腹に力を込めた。そして、一度目をつむり覚悟を決めると、再びクディルの方を見た。
「私はどうすれば?」
急に精悍な顔つきをしたメレンケリを見て、クディルはほっとして穏やかに微笑んだ。
「体を休めてください。あなたの力は、大事な戦力なります。私から言えるのはそれだけです」
「……分かりました」
「それでは」
椅子から立ち上がり、部屋から出ていこうとするクディルをメレンケリは引き留めた。
「あの、一つ聞き忘れたことが……」
「なんでしょう」
「この戦いが最後になるんですよね。大蛇を倒したら、きっと私の右手の力も……」
クディルは彼女が言いたいことがすぐわかり、大きく頷いた。
「ええ。必ずとは言い切れませんが、私たちの予想では消えると思います。メデゥーサ・アージェがグレイ・ミュゲとなってしまったからこそ、大蛇もその右手の力も生まれましたからね」
「……はい」
「勿論、大蛇と戦って勝つことは容易なことではないでしょう。でも、あなたは一人ではありませんから大丈夫です」
「一人じゃない……」
クディルは笑った。
「ええ。リックス少将もいますし、マルスさんもいます。グイファスさんだって。他のサーガス王国の騎士の方や、ジルコ王国の軍人の方も一緒に戦うのです。私も及ばずながらも共に戦います。だから、あなたは一人ではありませんよ」
「そうですね」
その時、メレンケリはふと、夢で見た人のことを思い出す。そして、自分はどうやってあの地下からこの場所に戻ってきたのだろうと思った。
「そういえば、私をここに連れてきてくださった人って、クディルさんですか?」
するとクディルは首を横に振って、柔らかな表情で答えた。
「グイファスさんですよ。ずっとあなたのことを心配しておりました」
クディルはそう言い残すと、メレンケリの部屋を後にしたのだった。
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