第113話 診察

「また来るよ」

 ローシェはそう言うと、医師とクディルと入れ違いで出て行く。一方で、メレンケリは部屋に老齢の医者と同時に、ぼさぼさの髪で猫背の青年が入って来たので少し驚いた。

「メレンケリさん、体調はどう?気分は?」

 ローシェに引き続き、どこの誰だか分からない青年に自分の体調を聞かれ、メレンケリは戸惑いながらも答えた。

「あ、えっと……あの、体はあまり動かないですけど、気分は悪くない、です……」

 すると青年は心から安堵したように、ゆっくりと笑った。

「そう。それならよかった」

「診察するよ」

 老齢の医師は細い目をさらに細め、おっとりした口調で言った。

「そうですね、お願いします」

 クディルが頷くと、医師はメレンケリの左側に立ち脈を取り始める。その間に、メレンケリはクディルに尋ねた。

「あの、あなたは……?」

 すると、クディルはメレンケリの方を向いて、人懐っこい笑みを浮かべる。

「これは失礼しました。自己紹介がまだでしたね。私はフェルミアの息子のクディルと言います」

 メレンケリは、強く凛々しいまじない師の名前に反応した。

「フェルさんの息子さん?」

「はい」

 メレンケリは眉を寄せる。

「しかしなぜ……」

「実はマルスさんと、グイファスさんがサーガス王国に行かれると聞いて、私も準備をしていたんです。聞いたのは、私の母と会ったあとに、彼らが再び北の山にいらっしゃったときです。あのときはメレンケリさんはいらっしゃらなかったので、私のことは知らないと思います」

 メレンケリは思い出した。確かに、グイファスとマルスはフェルミアにもう一度会いに行っていた。彼らはそこで出会っていたのだ。

「ええ。あなたのことは、今、初めて知りました。すみません……」

 クディルはにこりと笑う。

「謝ることではありません。顔を合わせたことがないのですから当たり前です。私はただ、大蛇を倒すにあたって、少しでも力になればと思って来た次第です」

「そうだったんですね」

「はい。ちょっと、ごめんなさいね」

 老齢の医師がそう言ってメレンケリの手を離す。脈の次は次にメレンケリの顔を掴むと、目の下の頬を引っ張り目の下の様子を見たり、首に手を当てたりして触診をした。一通り終わると彼は最初と変わらぬおっとりとした口調で診察結果を述べた。

「脈は正常だね。少し貧血気味みたいだけど、きちんと食事をとって休めば回復するよ。まあ、すぐにとはいかないけど、急に激しい運動とかをしなければ大丈夫。それと傷の方は、また翌朝消毒致しようね」

 まるで幼い子供に言うかのように、その医者は言った。

「ありがとうございます」

 なぜかクディルが先にお礼を言うので、メレンケリは慌てて医師に頭を下げた。

「あ、ありがとうございます……」

 すると、診察の終わった医師はにっこり笑って、メレンケリの部屋を後にした。部屋にはクディルだけが残ったが、メレンケリは聞きたいことがあったので都合が良かった。

「あの、私……曾祖母、いえ大蛇といたはずですが、その後のことがよく分からなくて。そういえば、あれからどれくらい時間が経ったのでしょうか……」

 メレンケリは窓の方に目を向ける。カーテンが掛かっていて、外の様子は見えない。

「三、四時間くらいでしょうか。現在は、夜の九時くらいです」

「クディルさん、大蛇のことで知っていることがあればお教えいただけませんか?」

 するとクディルは、話が長くなるためか、メレンケリの左側にある椅子に座った。

「実は私は全てを見ていたので、お話することができると思います。聞きますか?」

 メレンケリはすぐに頷いた。

「勿論です。お願いします」

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