第112話 最初の友

「そうかもしれませんが、ルイリア様はあまりお姫さまって感じじゃありませんね」

「貴族っぽくもないだろ」

「ええ、そう思います」


 そう言ってから、メレンケリははっとした。

「あ、でも失礼ですよね、こんなこと言うの……」


 するとローシェはゆっくりと首を横に振った。

「いや、全く気にしてないよ。寧ろ嬉しい。私は家に縛られるのが嫌いなんだ」

「ルイリア様が?」

「その呼び方も好きじゃない。どうせなら、ローシェって呼んでくれないか」

 ローシェの青い瞳が鋭く光る。メレンケリは戸惑うように彼女の名を呼んだ。

「……ローシェ、さん?」

「敬称もいらない。呼び捨てで呼んでくれ」

「でも……」


 するとローシェはメレンケリの左手を恭しく手に取り、まるで歌うようにこんな風に言った。


「私もあなたのことを、メレンケリと呼びたい。初めての異国の来訪者よ。ぜひとも、私に最初の異国の友になる権利を頂けないだろうか」

「異国の最初の友?」


 メレンケリは美人が自分の顔をじっとみながらそんなことを言うので恥ずかしがりながらも、さらに友になりたいという人がいるということがいることに驚いた。

「もし、グイファスが最初の異国の友と言うのなら、異国の女性として初めてならどうだろうか?」


 メレンケリは、今までの人生を振り返ってみた。


 友達。


 それはずっと欲しかったが、父によって阻まれてきた存在。父と話してからは、それはメレンケリ自身のためだということは分かっていたが、それでも友達は欲しいと心のどこかで願っていた。


「でも、私には人を石にしてしまう危ない力があるんです……」

「右手を触らなければいいんだろ?それと、あなたがつけている手袋はその力を封じ込めてくれるのではないのか?」

 ローシェはメレンケリの右手を指さした。

「そうですけど……」

「私は気にしない。私はそれよりも、文化の違うところで過ごしたあなたと語り合いたいんだ。言っておくけど、私のことを名前で呼んで、敬称もつけなくていい人は特別だからな。誰にでも許しているわけじゃない」


 その瞬間、メレンケリは今までにみたことがないほど、嬉しそうににっこりと微笑んだ。

「ローシェ。異国じゃなくても、女性じゃなくてもあなたはだわ!」

「それはとても光栄だね!」

 ローシェは嬉しそうに笑った。

「ちなみにだけど、私がなら、マルスって言う人はどういう立場なの?友達じゃないんだろう?」


 急にマルスの名前が出てきたことにメレンケリは驚いたが、城のどこかで会ったのだろうと思い、とりあえず友の質問に答えた。

「マルスは兄の友達。私は職場の仲間」

「ははあ……そっか」

 彼女は腕を組みにやにやと笑う。その意味深な表情について尋ねようとした時、メレンケリの部屋の扉が開く音がした。

 首を傾げるメレンケリに、ローシェは言った。

「先生が来たようだ。診察を受けると良い」

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