第99話 不機嫌な理由
「おはよう、メレンケリ。今日は雪が降って一段と寒いな」
その日の朝、巡回の為、城内の集合場所に来たマルスは、淡いピンクのコートを羽織り、フードを目深にかぶっていたメレンケリに近づき、明るく挨拶をした。
「……おはようございます」
だがメレンケリの方は、素っ気なく、元気がない。
「どうした?」
「別に……。ああ、雪、降ってたんですね」
(雪が降ってたから、フードを被ってたんじゃないのか?)
マルスが不思議に思って、何となくメレンケリの顔を覗いた時だった。
彼は彼女の顔を見てぎょっとした。
「!?」
思わず声に出してしまいそうなのを必死に堪え、言葉を飲み込む。
(何があった!?)
何故か彼女の顔は今までになく不機嫌で、眉間にぐっとしわが寄っている。しかも目が妙に腫れぼったい。どう考えても、フードを被っていたのは顔を隠すためだ。
マルスが驚きすぎて、どうしたらいいか分からないでいると、メレンケリが伏せていた目を彼に向ける。それは言いようによっては睨んでいるかのようだった。
そしてマルスがどう言葉を掛けようか悩んでいると、先に彼女の方がぼそぼそと呟いた。
「マルス……私に、何か用ですか?」
「い、いや、何か元気ないなって思っただけだけど……」
するとメレンケリは長いため息をつくと、一言言った。
「それは、気のせいです」
(どこが気のせいなんだっ!)
どう見ても何かあった。
何かあったが、何があったか聞けるような状況ではないことは、マルスにでも分かる。
すると、マルスの視界に二人のサーガス王国の若い騎士が入った。彼らはこれからの朝の巡回の為に馬を用意しているようである。
彼はそのサーガス王国の騎士に視線を合わせたが、彼らはマルスとメレンケリを交互に見ると何故か力強く首を横に振り、無実を訴えた。
(いや、別に疑っているわけじゃないんだけど……)
何か知っていたら教えて欲しいと思ったので、素早く彼らに近づいて小声で尋ねた。サーガス王国の二人の騎士はおろおろとしながら、その場から逃げるかどうか悩んだが、馬を放置するわけにもいかず、マルスに捕まってしまう。
「え、あの、私たちは関係ないですよ!」
聞いてもいないのに、自分から無実を証明しようとする彼らに、マルスはふっと笑い、優しい口調で尋ねた。
「君たちが何かしたのかとかは疑ってないよ。大丈夫。だけど、メレンケリがなんであんな元気ないのか分かる?」
背の低い方の騎士は首を横に振った。
「知りません」
「昨日とかは?俺が見た限りだと、落ち込む素振りなんてなかったと思うんだけど」
サーガス王国の騎士二人は顔を見合わせる。すると背の高い騎士の方が言った。
「私も分かりません。昨日は巡回の前の馬の準備と片付けも私がしましたが、あれほど気落ちはしておりませんでしたよ」
「……そっか。ありがとう」
マルスは腕を組んで、はあ、とため息をついた。
(何がどうなっているんだ?)
マルスは首を傾げるばかりだった。
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