第81話 部族の蜂起

「確かに、エランジェ国王陛下も、ジルコ王国との国交が冷えてから約百年になると仰っていたけれど、戦争が原因なんですか……?」


 メレンケリは呟いた。


「そうだよ。今の若い人たちは本当のことを知らないんだね」

「……本当のこと?」

「ジムルは? 知ってる?」

 ジムルは首を横に振る。

「いいえ。具体的には特に」

「そっか」

「戦争って、ジルコ王国とサーガス王国が戦っていた時があったということですか?」

 メレンケリが尋ねると、リックス少将はそれを否定する。

「いいや。サーガス王国とジルコ王国は戦っていないよ」

「じゃあ、どうしてですか?」

「サーガス王国で起きていた内戦の飛び火を、ジルコ王国が受けたから、ですよね」

 今まで黙っていたグイファスが、口を開いた。

「そうなの?」

 聞き返すメレンケリに、グイファスはリックス少将を見た。すると彼は手をグイファスに向けて、話の続きを任せた、という仕草をした。グイファスはそれに頷くと、リックス少将から話を引き継いだ。

「ああ。メレンケリも知っている通り、サーガス王国は色々な人種がいるだろう?」

「ええ」

 メレンケリは頷いた。


 サーガス王国に来てから、目で見て分かるだけでも色々な人たちを見て来た。肌の白い者、グイファスのように浅黒い肌をした者、赤褐色の者、象牙色の者。髪の色も黒だったり、茶色だったり、ブロンドだったり色々である。


「サーガス王国は元々とても小さい王国だったんだけれど、その周辺の小国と小競り合いが激しくて、何百年もの間戦争ばかりしていたんだ。それでもようやく他の国と和解し、サーガス王国に取り込んで、大体今のような形になったのが百年前。まあ、大蛇のお陰もあったんだけど……」

「大蛇のお陰って?」

 ジムルが尋ねる。

「実は大蛇は約一五〇年前に、サーガス王国の国王と盟約を結んでいるんだ。リックス少将はこの辺の話は聞きましたか?」


 少将は腕組みをしながら、「聞いたよ」と答える。


「サーガス王国に来る前に、マルスにね」

「俺は聞いていないから教えて欲しい」


 自分だけ知らないのは困る、と言った様子で、ジムルは隣に座るグイファスに詰め寄った。


「分かった、話そう」


 そう言って、グイファスはジムルに大蛇との盟約の話をした。一五〇年前のサーガス王国の国王が、自分の血と城の地下に大蛇が住む寝床を作る代わりに、国を守る盟約を交わしたということを。そしてそのお陰で、王が崩御するまでの五十年間は戦争のない平和な時代だったことを伝えた。


「そうだったのか……。大蛇って、最初はいい奴だったんだな」

 ジムルが神妙な面持ちで呟く。

「まあ、その五十年だけだけれどね」

「それで? その後どうなったんだ?」

「その後は、王が崩御してからすぐにある部族が反逆を起こした。自分たちの土地を返して欲しいとね」


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