第82話 戦火の火の粉が飛び火したとき

「土地を返す?」


「その部族が住んでいたのは、森との境だった。

 そこは土壌が良くて、作物とかもしっかり育った場所だったんだ。だけど、そこをサーガス王国に譲ったんだ。彼らは、自分たちだけが食べる分だけ育てていたんだが、どんどん人口が増えていくサーガス王国では、食料が足りなくなっていた。だから、その部族の土地を譲ってもらい、作物を育てることにしたんだよ。

 だけど、サーガス王国では譲ってもらったと思っていた土地は、部族の人間にはそう思われていなかった。部族の者たちには、土地を譲ってもらう代わりに金を渡したのだが、それは若い部族長が全て持って行ってしまい、他の人間は一文無しになった。

 そして新しくあてがわれた場所ではうまく生活できず、彼らは疲弊。沸々とその恨みが募り、大蛇がいたときは恐ろしくて逆らえなかったようだが、国王の崩御と共に大蛇の存在が消えると、蜂起した。それが、ジルコ王国との国境で小競り合いになったものだから、国境との境など考えなかった部族が、ジルコ王国の方へ侵入。そして、ジルコ王国でも被害があったという話だ」


「……そうだったのか。部族との戦いは終わったのか?」

「ああ。終結したよ。多くの犠牲を払ったけれどね……」

「その部族は?」

 ジムルが慎重な声をして尋ねた。

「……残念ながら、女性や子供以外の戦いに赴いた男たちは、全て罪に問われたよ。ジルコ王国という隣国の国に、影響を及ぼしたことが大きな問題になったこともあって、処刑されたものも多数だったようだ」

 メレンケリは思わず口に手を当てた。部族の人々のことを思いやると、悲しかった。


 だがグイファスは、乾いた笑いを発した。


「先人には悪いけれど、情けない話だと思うよ。部族との戦いを国境沿いに追いやらなかったらこんなことにはならなかったはずなんだ。

 だけどさっき言ったようなことになってしまったから、その時からジルコ王国は、国境の警備に慎重に慎重を重ねるようになったし、他国の人間が出入りすることも極端に嫌った。入ってくれば、いち早く他の国の状況を知るために、尋問するようになったんだろうし、密偵が入ったりしていないかということも確認するようになった」


 彼は部族をこのように追いやってしまったことを、嘆いているようだった。歴史上どうすることもできなかったとはいえ、国を想うからこそその失敗を教訓にしようと思うのであろう。


「……」


 ジムルが何と言っていいのか分からずにいると、リックス少将が代わりに言った。


「我々の国では、急に起きた出来事だったからね。サーガス王国の策略だと思っていたんだよ。それが違うと分かったのは、その三十年後だった。だからずっと異国の人間が入ってくることをとても警戒しているんだよ。だから、メレンケリの力も重宝されてきたわけだ」


 リックス少将の言葉に、メレンケリは自分の右手を見た。

 自分の力が、どうして必要とされてきたのか。その理由がようやく分かり、触れたものを石にする力は、今までの国の現状のことも相まって人々に受け入れられてきた力なのだと思った。


「……」


「だが、それもこれももうお終い。我々は新たな時代へ移り変わろうとしているのだ。大蛇という存在がなくなり、共に戦う友を得る。それが、これからの未来だろう」

「そうですね」


 

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