第80話 国交が冷えた原因

「……?」


 急に言い訳めいたこと言われ、リックス少将は耳を疑った。だが、ミアム中佐はそのまま弁明を続ける。


「折角、ジルコ王国の方が来てくださったのです。しかも私たちの危機に駆けつけてくれました。ですから、ちゃんとおもてなしをしたかったんです。そして、サーガス王国での我々の生活を見て欲しかったんです……。それはきっとあなた方が国に帰ったときに、素敵なお土産話になるでしょうから。この国の良いところを見て下されば、今まで冷え切っていた国交も徐々に戻ってゆくと思いました。国王陛下がそう望んだように」


 そういってミアム中佐は恥ずかしそうに笑った。


「まあ、ちょっと考えが浅はかですけど……」

「そんなことはないでしょう」


 リックス少将はミアム中佐の話の意図がようやく分かり、微笑した。


「あなたのその国を想い、私たちのことを歓迎してくれる気持ちは嬉しい。私たちもサーガス王国の国王陛下に会ったので、国交のことを考えていることも十分に理解できる。よく考えてみるとジルコ王国と、サーガス王国の国交が冷えてから約百年。それまで、ほとんどジルコ王国とサーガス王国を行き来した者はいないからね」

 ジムルはリックス少将の話を聞いて頷いた。


「そういえば、隣国でありながら話は聞きませんね。我が国は長い間、他の国の侵略に怯えていましたから」

「そうだな」

「そう言えば、どうしてサーガス王国との国交って冷えたのですか?」


 メレンケリはリックス少将に聞いてみた。実を言うと、ジルコ王国の国民の多くは、自国が鎖国状態になっていることは知っていても、何故他の国との国交が途絶えたのか、具体的な理由を知らない。大抵は、「他国がジルコ王国に進軍してくる可能性があるので、国交を閉ざした」としか伝えられていないのだ。だが、人々はそれに疑問を持つことはなかった。誰に聞いてもそう答えられたし、それしか知らなくても生きていくのに不自由はなかったからである。


 しかし、サーガス王国に来た今、なぜ国交が冷えていたのかと言うことが気になってきた。グイファスがマルスと友情をはぐぐめたように、国を越えて友を作ることができると思うようになったメレンケリは、尚更そう思うようになったのである。

 すると、ミアム中佐は悲し気に微笑み、リックス少将は彼のその表情を見て大きくため息をついた。


「今から百年近く前にあった、戦争が原因なんだよ」

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