第79話 レストラン『カッハル』で朝食を
午前八時三十分ころになると、行きかう人の数も増え、街が賑やかになってきた。早朝の時は、鍛え抜かれたような体格のいい男たちばかりだったが、この時間になると女性たちも外に出て来ていた。きっと、彼女たちも仕事に向かうのだろう。メレンケリは母親が専業主婦だったこともあり、同じくらいの歳の女性が仕事をしていると思うと、サーガス王国の女性は「逞しいなあ」と内心思った。
そして、ミアム中佐が「この辺りで朝食を取りましょう」と提案した。
「そうだね」
リックス少将も他の軍人も騎士も頷いたので、ちょうど道の右側で馬小屋があり、朝食を提供している小さなレストランへ入ることにした。
「いらっしゃいませ」
ギャルソンが、落ち着いた声で挨拶をする。店内も彼と同じように落ち着いた雰囲気で、清潔感のある場所だった。朝とはいえ、フロアは暖炉でよく温まっており、凍えた体を温めてくれる。
そしてギャルソンはミアム中佐たちが着ている騎士の制服を見て、「奥が空いております」とフロアの奥にある扉の先へ案内してくれた。
「ありがとう」
ミアム中佐はギャルソンにお礼を言うと、そのまま黙って奥の部屋へ歩いていく。メレンケリ達は、彼の後ろに繋がり、同じように奥の部屋へと入っていた。
奥の部屋は十人掛けのテーブルになっており、一行は十分に座ることができた。
「このレストラン『カッハル』は騎士たちがよく来る店なんです。仕事中に食事をしたりすることがあるので、店には騎士たちが出入りすることを言っているので、このような特別な配慮をしてもらえるんです」
ミアム中佐がリックス少将を含めたジルコ王国の者達に説明をした。
「成程。そういうレストランは他にもあるんだろうか」
リックス少将が尋ねる。
「ええ。でも騎士が業務中に出入りしていいレストランは、毎年のように変わるんです。でないと、不公平でしょう?」
騎士は一般市民よりもお金を持っているし、外食をする頻度も多い。それ故に、騎士が出入りしていい店は自動的に繁盛するのである。それが毎年変わらならないと不公平になってしまうということだ。
「確かに。しかし、どうやって騎士が入っていいレストランを決めているのかな?」
「実はレストランを評価する人たちがいて。それも不公平にならないように、貴族、騎士、庶民の全ての人たちから、騎士の本部から指名されるんです。彼らは自分がそういう立場になったことは一切他言してはいけません。他言したことがバレたら、罰則もあるんですよ。それ故に、周囲は誰がなっているなどは知らされていないんです」
「ほう」
「そして、彼らが一番お気に入りのお店を教えてもらい、候補が多かったものを優先的に騎士の行きつけにしているんです。ただ中には、熱心にレストランの良いところを書いてくれる人もいて、そういう場合は騎士の本部で出向いてそれが本当かどうか確認し、票が少なくても騎士行きつけの店になる場合もあるんです」
「それはいいことだね。店のいい所を見つけて、騎士の行きつけの店になれば、その店の宣伝にもなる。経済効果があるだろうね」
「ええ。お陰でレストラン業は活気に満ちていますよ」
するとそこに先ほどのギャルソンが、リックス少将に微笑みながら答えた。
「すみません。レストランのお話だったようなので、聞いてしまいました」
ギャルソンは申し訳なさそうに言った。
「あまり盗み聞きはいいものではないね。しかし、君たちが誇りを持って仕事をする理由も分かるよ」
リックス少将がそう言うと、彼は嬉しそうに微笑んだ。そして彼は持ってきた人数分の水を配るとテーブルについた全員に尋ねた。
「さて、ご注文の品はお決まりですか?」
ギャルソンが尋ねると、ミアム中佐がメニューを見る前に答えてしまう。
「ここの一番人気のメニューである、焼きサンドイッチを人数分頼みたいな。それから、温かい紅茶も」
「かしこまりました」
ギャルソンが出ていくと、少し驚いているリックス少将にミアム中佐は申し訳なさそうに言った。
「あ、すみません。勝手にメニューを決めたのはまずかったですか?」
「いえ、そういうことでは……。ただ、メニューも見ないで決めていたので最初から選ぶ品物が決まっていたのかなと」
するとミアム中佐は照れ臭そうに答える。
「実は、そうなんです。ここの焼きサンドイッチは絶品なのでぜひ皆さんに食べてもらいたくて」
「成程」
淡々と答えるリックス少将に、ミアム中佐は彼が誤解していると思って弁解するようなことを言った。
「あの、だからといって業務中にずっと今日の朝食のことだけを考えていた、というわけではありませんからね!」
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