第53話 生まれた国が違う友
「お疲れ様」
グイファスの部屋の扉が開くなり、メレンケリは座っていた椅子から立ち上がる。疲れた様子の二人を見ながら、彼女はおずおずと尋ねた。
「どうでしたか?」
するとマルスは微笑を浮かべ、ゆっくりと椅子に座った。そしてため息交じりに呟く。
「なかなか大臣の意見がまとまらないんだ」
「そうですか……」
「慎重なのだろう。仕方ない」
メレンケリはグイファスに椅子を譲り、「お茶を用意しますね」と言って簡易キッチンでお湯を沸かす。
その間に、マルスとグイファスが話をし始めた。
「慎重なのはいいが、あまり過度であっても困るけどな。話が進まなくなってしまう」
「確かにそうだが、ジルコ王国のことを考えたら当然のことだろう」
グイファスが先ほどから、「仕方ない」や「当然のことだ」と言うので、マルスは面白くなさそうな顔を浮かべる。
「グイファス、何故君はそんなに消極的なんだ?」
マルスの質問に、グイファスは意外だとばかりに目を瞬かせた。
「俺が消極的?」
「そうだ。俺はすぐにでも君を国に帰してやりたい。そうでなければ、サーガス王国にこちらの現状を知らせることもできないではないか」
「そうかもしれないが、ジルコ王国の方針が決まるまでは何も動けやしないさ」
それに対し、マルスは力強くグイファスに言った。
「動けないとは言っても、君はメレンケリの力を借りることもできることになったし、フェルさんから受け取った剣だってある。それがあれば、大蛇と戦うことができるはずだろう?」
マルスの言い分はもっともだった。だが、グイファスは力なく笑った。
「分かっているよ。戦うためのカードは揃っているんだ。だけど、そのカードを行使するにはジルコ王国の許可が必要だろう」
「どうして……」
そんな風に言ってしまうのか。そこまでしてどうして王国の許可を待つ必要があるのか。マルスがそう思っていると、その答えをグイファスはくれた。
「マルスが言っていることは正しい。それにとても嬉しい言葉だ。ありがとう。そう言ってくれるだけで、俺は今の状況でも希望があると思える」
「なら、何故?」
「だけど、君もメレンケリもジルコ王国の者だ。勝手に借りていくわけにはいかない」
マルスは首を横に振った。
「俺は国の所有物じゃない」
グイファスは微笑する。
「知っているよ。だけど、君たちはこの国に属する人たちだ。国に属するということはその国を守り、そして国が君たちを守るということなんだ。だからこそ大臣たちは渋っているんだよ。特に軍人であるマルスと軍事警察署の中で特異な存在となっているメレンケリなのだから、尚更さ。
そんな君たちを許可なしに連れ出したとして、何になるだろう。きっと処罰を受けることになって俺は後悔する。俺はそんなことしたくないんだ。君たちの力を借りられるのであれば、正々堂々と真正面から願い出たい。そしてそれに対する真摯な答えが欲しいんだ」
「……」
マルスは何も言えなかった。
グイファスは自分よりも十歩もに二十歩も先に進んでいる。彼はサーガス王国のことが心配でたまらないだろうに、それよりも力を貸そうと言って傍にいる自分たちのことを気遣っていたのである。考え方が甘かったことを恥じ、マルスは謝った。
「すまない……」
だが、グイファスは笑って答えた。
「いいんだ。君の言葉は俺のことを思ってくれてのことだ。言われて嬉しくないわけがないんだ」
メレンケリは二人の話の区切りを見つけ、そのタイミングでお茶を持って言った。二人は「ありがとう」と言って、美味しそうにお茶を飲む。
(国は違えども、友情は育めるのだわ……)
メレンケリは二人の様子を見ていてそう思った。
今回の出来事は確かに二人にとって大変なことのようだった。だが、周りが難題を出すたびに、彼らの仲が強くなっていく。そしてグイファスとマルスは親友のように仲良くなり、メレンケリはそんな二人の様子を見ているのがとても楽しかった。
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