第52話 駆け引き
「サーガス王国では大蛇が問題になっているのです。それをジルコ王国の者が手助けしたとなれば、貸しができます。そうすれば、今、緊張状態にある両国の関係も緩和させられるのではありませんか」
「……」
何も発さぬ署長に、メレンケリは言葉を続けた。
「それに、今回のことを承諾し、署長自らが指揮したのであれば、その功績が讃えられることでしょう。そしてこれは署長にしかできないことなのです」
一か八かだった。これで頷いてもらえなければ、非合法的な処置をとるしかない。メレンケリはそう思っていた。
沈黙の後、署長は長い溜息をついた。
「そこまで言うか」
「……」
「『功績が讃えられる』というのは、一言余計ではあった」
「え……」
メレンケリはまずいことを言ってしまったのだと、後悔した。だが、次の瞬間署長は相手の気を許したような、優しい笑みを浮かべた。
「だが、それは確かに我が国にとっても有益なことかもしれんな」
「署長……!」
署長は頷いた。
「君の気持ちはよく分かった。マルス、君も」
マルスはそろそろと立ち上がる。
「署長……」
「だが、全てのことを私の一存では決めれない。とりあえず、国王に話を通さなければ。国と国との問題になろう」
「では……」
「力を貸そう」
署長の言葉に、メレンケリもマルスも頭を下げた。
「ありがとうございます」
それから数日、軍事警察署から王城へ使者が何度も行ったり来たりした。グイファスを釈放することについては思ったよりも早く理解してもらえたが、サーガス王国を手助けする問題に対しては大臣たちの様々な考えが行きかった。
「サーガス王国は我が国の手助けなど求めてはいないだろう」
「いや、貸しを作るのはいいことなのではないか。全く悪いというわけではないが、両国の関係は確かに冷えている。そこに今回の話を持ち込めば、国交に活気が戻るかもしれん」
「メレンケリの力を他国の為に使うとな。それは私には理解できない」
「国の為を思うのであれば、サーガス王国に手を貸すべきです」
「国のこともあるかもしれませんが、困っている人がいるのです。助けるのが人情ではないでしょうか」
「何でも簡単に人の者を貸してはいけないのだよ。大蛇がいなくなって、サーガス王国が元に戻ったら、今度は我が国に牙を向けてくるかもしれんぞ」
等々である。
またグイファスとマルスは王城で控えている大臣の元に呼ばれ、サーガス王国の現状を何度も説明することもあった。彼らは大臣たちからの質問に答え、朝から夕方まで王城に拘束されていた。
そして城から帰ってくると、今度は警察署の署長や各将に、王城で何を話したのか、何を聞かれたのか軍事逐一報告をしなければならず、大変な日々が続いた。
二人は濃密な一日の予定が全て終わると、グイファスの部屋に戻ってくる。そのためメレンケリは二人の体を思って、自分の仕事が終わっても帰らずに、グイファスの部屋で夕食を用意して待っていた。
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