第24話 その右手のために
さすがに父は自分もその力を持っていただけあって、メレンケリの手袋越しの右手に触れても、これといって畏れることはなった。ただ、彼は革の手袋からじんわりと伝わってくる娘の体温に、人には分からぬほど微妙に顔を引き締めた。
「『石膏者』という仕事はこの手を生かすために、私の祖父、つまりメレンケリの曾祖父が考えたものだ」
「曾祖父?」
メレンケリが眉をひそめると、父はそっとその手を離した。彼女はそのまま右手を胸の前に置き左手できゅっと握った。
「メレンケリもさすがに知っているだろう。『石膏者』が石にした者たちがどうなっていくのかを」
メレンケリは父から視線を逸らして頷いた。
「……はい」
「しかし、あれは我々の力を社会の中で成り立たせるために必要なことだった」
「どういうことです?」
再び顔を上げる。彼女の瞳は揺れていた。
「もし、この力がこの社会で生きている人間の役に立たず、人を恐怖に陥れるだけのものだったとしたらどうだろうか」
メレンケリは父の意図した質問が分からず、首を傾げた。
「恐怖に陥れるだけ……?」
「『石膏者』という仕事は、我々の力があってこそ存在する職業だ。そして軍人たちはこの力を重宝してくれる。それは彼らにとって有益な力だからだ」
「……」
「しかし、これが彼らの仕事の邪魔になったり、一般市民を脅したりするような力だったら、我々はとっくに殺されている」
メレンケリは父の淡々とした言葉に、口元に無理矢理笑みを作った。そうでもしなければ、恐ろしくて聞けないような話だと思った。
「殺されるなんて……私、脅したりなんてしません」
すると父は椅子に座って、長く息を吐くと作りかけの木箱を手に取り、それを優しく撫でる。
「今ならば、この右手には石にする力はない。だから、何も考えずに触れられる。だが、力があったときは常に右手に触れるものに神経を研ぎ澄ませた。何故なら――」
そう言って父は言葉を止める。
「何故なら?」
何故言葉を止めたのか分からなかったメレンケリは、興味本位で聞いたがそれを父の次の言葉を聞いて後悔した。
「私は友人を……この手で石にしたことがあるからだ」
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