第...話
おれの机の上は何故か未確認生物やギリシャ神話などの記事で埋まっていた。
余りにバラバラな題材の唯一の共通点は人魚。
特にセイレーンという怪物についてが多く見られるな。
これも曲を作るにあたってきっとおれが適当に探し集めたものなんだろうけど、何かが引っかかる。
おれは何かを忘れている気がする。
絶対に忘れてはいけない何かを。
でもまぁ、何かを忘れるなんていつもの事だからそんなに気にしなくて大丈夫だろう。
忘れっぽいからこそ今のおれがあるんだろうからな。
色々あった。
自分を嫌いになった。
歌を、曲を、世界を憎んだ。
愛していたはずのもの全てが忌まわしいものに変わってしまった。
なのに、おれはまたここにいる。
まだここにいる。
生きていける。
だっておれの涙は目とおんなじ色の綺麗な宝石になって、そして美しい砂と一緒に溶けたのだから。
…何を言ってるんだ?
まぁいっか。
さぁ、明日も何か刺激を求める旅に出よう。
この世界は面白い事で満ち溢れている。
汚く穢れたものもある。
でもおれの目に映すのは綺麗で美しいものだけで充分だ。
それ以外は容量オーバーだ。
だから切り捨てる。
汚いものなんていらない。
それが分かっただけでもおれの経験は無駄じゃなかった。
闇から掬い上げたおれの本当の望み。
ドロドロの闇の中でも、しっかり輝きを取り戻してくれたおれの望み。
掬い上げてくれたのは…誰だっけ?
まぁいいや。
美しい歌声で人々を惑わせるセイレーン。
魅惑の歌声は時に道標になる。
セイレーンだって、きっと人を惑わせ、貶め、そして海の底へ引きずり込むだけが望みじゃ無いはずだ。
なんで急にそんな事思い始めたのか、正直自分のことなのによく分からない。
でも分からないから面白い。
デタラメで、不可思議で。
そんな世界を、おれはもう一度愛せる。
大丈夫。
「…〜♪……」
「え…?」
歌声が、聞えたような気がした。
とても美しく、儚い声。
でもこの曲…どこかで……
ま、そういう日もあるよな。
よし、取り敢えずセイレーンを題に一曲書いてみようじゃないか。
タイトルは…そうだな…
『美しい世界の歌声を愛と呼ぶ〜Ma Chérie〜』
〜end〜
彼女達の歌声は何故あれ程美しかったのか 月詠 キザシ @moon_Kizashi
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