ピアニストが知らせたもの
ある有名なピアニストが弾いた静かな曲
聴いていると
穏やかで優しい気持ちになる
ある無名のピアニストが弾いた同じ曲
なんということだろう
ゆっくりとしたテンポは同様なのに
内に秘めたただならぬ緊張
静かということは
必ずしも優しいとは限らない
牙をむいた猛獣の正面にいるような静寂もある
ピアノの音が鳴るたびに
冥府への螺旋階段を降りていくような下降感
首を絞める輪が徐々に狭まっていくような窒息感
演奏者の解釈によって
演奏者の感情によって
同じ旋律でも千変万化する音楽
なんということだろう
生まれたときに予感していたよりも
この世は底深くて面白いぞ
知らせなくちゃ
毎日絶望している自分と
毎日絶望しているだれかに
このことを知らせなくちゃ
無名のピアニストの絶望を知らせなくちゃ
絶望が共鳴することで訪れる希望を知らせなくちゃ
解釈によって千変万化する魂と世界の震えを知らせなくちゃ
今日と明日は同じように見えて二度と戻れない裂け目を孕んでいるという事実を知らせなくちゃ
木の葉一枚すらにも宿る神の息吹きを感じるための解釈を知らせなくちゃ
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