晴天の〇〇 ②

「鳴海! 深夜拉致って来た!」


 何が起きたのか、行き先も告げない七弥に連れて来られたのは、本来私達が入ることができない関係者以外立入禁止の看板の先、出演者の楽屋というところだった。


「な、何スか……急に連れてきやがって……」


 準備運動もなく急に走り出したせいで大した距離でもないのに私は肩で息をするはめになっていた。


「よくやった七弥、珍しく役に立ったなお前」


 そこで待っていたのは、当然と言えば当然だけれどなるみん先輩。

 それと――


「おぉ、ホントに来たよ。久しぶりー深夜ちゃん」

「あぁん!? んだテメェ……誰が名前で呼んでいいつった? そもそも、話しかけんなってつったろ寄生虫モドキ」


 なるべく視界の端に追いやりながら流し目で睨みつけるのは最後のN。

 NNN最後の一人、ドラム担当藤本 昇。

 まさに、人の皮を被った寄生虫である。


「昇、丹華が話せなくなる、少し席を外してろ」

「ちぇっ、せっかく久しぶりに深夜ちゃんに会えたのにー」

「その薄汚い顔面を二度と鏡で見れなくしてやろうか?」

「ほら会話になってねぇ……」


 一挙手一投足が嫌い。

 なるみん先輩の指示で渋々、昇はこの場から消えてくれた。

 ヤツのことなど語る気も起きない。


「今のがもう一人の人? 優しそうやったし、そんな悪そうには見えへんかったけど」

「大丈夫、すぐに見てくれも腹の中と同じに変えてくるから――って晴!!??」


 私だけが七弥に攫われたのかと思っていたら、どうしてか傍にいつの間にやら晴もいた。


「深夜が連れてかれそうになったから手ぇ掴んだんよ」


 ほら、と晴が掲げるのは繋ぎっぱなしの私と晴の手。

 思わず、私は恥ずかしくなって手を引っ込めてしまい、すぐさま、あと数秒耐えればよかったと後悔した。


「この人が丹華が話してた晴さんか」

「写真で見たことあるけど、生だと一層、中々……」


 楽屋に残った七弥となるみん先輩はそれぞれ初対面の晴に対する感想をひとりごちに呟いてた。……とりあえず昇のついでに七弥も殺しておこう。 


「初めまして、晴っていいます。二人のことはよう深夜から聞いとるよ」

「バンドリーダーの山谷鳴海だ。丹華が世話になってる」

「俺は七弥。ところでアフター暇なら一緒ご飯でもどうかッ――」

「その歳で子供が作れない身体にはなりたくないッスよね?」


 こいつらはチキンレースでもしているのか、簡単に自らの首を締めるものではない。


「それはそうと、いきなり連れてきてなんのようスか七弥、なるみん先輩」


 なんだかんだ時間を使ってしまったけど、結局、なんのために私が連れて来られたのかいまだ謎のまんまだ。


「ん? ああ、そうだな急で悪いがお前に頼みたいことがある」


 普段冷たいなるみん先輩が珍しく気の毒そうに七弥を見ていた青ざめた顔を上げて、気を取り直して本題に入った。



「今日だけ……今日のライブだけでいい。丹華。俺らの……NNNのギターを担当してくれ」


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