三小節目 晴天の霹靂
晴天の〇〇 ①
「結構ええ感じやない?」
「ほう……」
七弥らのライブということなのでどんな狭い箱で閑古鳥が鳴いてるのかと思ってたけど、100人200人入りそうな場所に開演三十分間前でまあまあ人の入り。
男女比は6:4くらいか、意外と男子のが多いのだな。こういうのに興味があるのは顔のいい男にキャーキャー言いたい女子ばかりかと思ってたけど。
「ウチこういうとこ来るん初めてなんよ」
私はホルダーにポカリ、晴さ……晴はオレンジ味の炭酸を片手に会場内を見渡していた。
昼間のうちに物販は終わっているようで、皆思い思い好きなバンドのグッズを身につけている。
「あらためて考えてみると、七弥らが生演奏してるのは初めて見るかも」
「そうなん?」
そう、七弥の練習にはよく付き合ってやってるし、なるみん先輩に至ってはギターの師匠だ。故に彼らのバンド「NNN」のCDも度々プレイリストから流れてくる。
しかしながら三人揃って演奏をしている姿は多分一度も見たことがないんじゃないだろうか。
「そういえば、その七弥って人となるみん先輩って人はよく話に出てきはるけど、NNNって│
「ああ……ごめん晴」
「ん?」
「――アイツだけは無理、一秒たりとも頭の片隅に置いておきたくない」
多分、これが理由だと思う。
各方面でクズを取り揃えたNNNだが。見る面によっては悪いところばかりではない二人に比して、とりわけヤツはどの方向から見てもクズの側面しかない。筋金どころか全身くず鉄で固めたクズなのだ。
私が特別毛嫌いしていて、それを他二人も分かっているがゆえに、二人ほど直接私と関係のないヤツが私の前に姿を表すのは稀なのだ。
「えっと、嫌なん承知で聞くけど。なんでなん?」
「七弥以上に女を食い物としか見ていないとこ」
それに尽きる。
というか、まさにヤツはそれだけの生き物と言ってもいい。
多分、ヤツに人の心はないのだろう。
マジで顔も思い出したくねぇ……
「まあ、意識して会おうとでもしなければ、会わないやつッスし。今日も観戦だけなら多分話すことも……」
「――いた! 丹華見つけた!」
正直これ以上野郎のことを考えてるのが辛くなってきたタイミングで、私と晴の時間を邪魔するモノが介入してきたのだった。
「は? 七弥!? なんス――」
「ちょっと来い、緊急事態だ」
有無を言わさず突如として現れた七弥は私の手首を掴み掛かり、引っ張って走り出す。
「え、何? ちょ! 待って――! 晴ッーー!」
「み、深夜ッーー!?」
一瞬の風に攫われようとしてる私に向けた驚愕の声を引き連れて私は会場を連れ出されてしまったのだ。
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