終章
リージャ -1
都でその後、様々なことがあったらしいが、具体的に誰がどうなったのか結局リージャには理解が出来ないままだった。
リージャの周辺で起きた変化は、第二王子ヒュアリウスと通じていたフュラスが屋敷を去っていったことぐらいだ。
イルヴィルは子竜と雛竜を国王の前で簡単にお披露目し、これまでと同様に竜事業を担うことになったとアンドゥールから聞かされた。
ヴィートトク邸に戻ってきた竜たちを、これまで通り、ケスリーと、親戚の葬儀を終えたザルフが世話している。
竜たちのリージャへの懐きぶりを改めて感じたイルヴィルは、リージャと竜との接触を禁じることを取りやめた。外を散歩させる習慣が復活すると、気になっていた悪臭は再び消えていった。
「臭い、散歩、消える、イルヴィル、役、立つ?」
数日考えてから、意を決してイルヴィルにそう報告したところ、イルヴィルは頷いた。それから、少し考えるようにして、言った。
「リージャ、お前、指文字を習ってみないか」
リージャは首を傾げる。
「お前が意思を表現できないのではなく、喉のことを気にして話せなかったというのはヴォルブから聞いた。喉の治療ができないか、いずれ医者に見せようと思うが――それとは別に、確実に自分の意思を表現する別の方法を体系的に学んだらどうかと思うんだ」
リージャはその言葉の意味を数秒黙り込んで考える。
「イルヴィル、役、たつ?」
「俺の役にも立つ。だがそれ以上にお前の役に立つはずだ。俺は、お前の役に立つことを、お前自身にやって欲しい」
もう一度、数秒考えてから、リージャは、この大陸にやってきて初めてタマラから教わった、意思表示の方法をここで示した。深く、頭を沈めて、顔を上げた。
「そうか、では、早速、準備をしよう」
柔らかな笑みが、窓から差し込んだ光に当てられて輝いている。リージャはいつの間にか、それを見ると少し胸が苦しく落ち着いていられない気分になるようになった。
大陸にやってきて四度目の新しい季節が、始まろうとしていた。
(了)
竜の蹄 碧 @madokanana
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