――運命(さだめ) 後―――




 母は言った。

 ――『あんたを舞踏会になんて、行かせる訳ないでしょう?こんなに汚い子を連れて行くなんて、わたくしが笑い者になるわ。そんな冗談はいらないのよ。』

 と。それはもう、当たり前だとでも言うかのように。




 その言葉を聞いたとき。

(……この人はもう、わたくしの母ではない。母はもう……いないのね……)

 私はようやく―――遅い決心をした。







 ―――数日前に手紙があったときから私は、ある計画を一人でたてていた。

 それは、ミラをドレスアップさせて舞踏会に連れていく・・・という計画ものだ。

 しかしこれは、単純に見えて実行するのがとても難しかった。というのも、本当に母が

 だからこそ母が―――いや、がそう言ったときは、笑いを通り越して呆れて何も言えなかった。そんなことをミラに言える訳がないけれど、でもあまりにも簡単に当たってしまったので、笑うしかなかったのだ。

 ある程度の用意は、二人をよく思っていない従者たちの手を借りて準備していた。あとは実行するかどうか、の言葉次第だったのだ。


 母はそれで話は終わりだと思ったのか、ミラにまたたくさんの用事を言いつけた。そして鼻で笑ったあと、余裕綽々よゆうしゃくしゃくとした表情でダイニングを出ていった。

 姉もまた、ミラを一言馬鹿にしたあとで準備のために出ていった。姉の高笑いは、小さくなるまで続いた。

 そしてその場は私とミラ、それから遠巻きに集まっている何人かの従者たちだけとなった。



 出ていったのを確認すると、私は近くにいた従者に声をかけてあることを伝えた。その者は頷き、隣の者へ。そしてまたその隣へと、伝言は続いた。

 同時に、その伝言を聞いた者たちが慌ただしく行動を開始。ダイニングは瞬く間に騒がしくなった。

 ある者は台の掃除を、ある者は食器の片付けを、またある者は床の掃除を。てきぱきと、効率よく的確に片付けていく。


 その時、何人かのメイドたちがミラに声をかけた。彼女たちはミラの腕を取り背中を押し、半ば強引にダイニングから追い出した。そして、ミラの部屋へと連れていった。

「な、なんで!?」

 というミラの戸惑いも無視して。

 彼女たちには、ミラの着替えの準備を頼んである。準備の間も張り切っていたので、きっとミラを素敵な令嬢にしてくれるのだと思う。


 出ていったのを見ると、私はもう一度従者の一人に声をかけ、ゆっくりとダイニングを出た。そしてその足取りで、ドキドキと緊張する胸を沈めながら母のいる部屋へとおもむいた。もうひとつの計画を、始めるために。



(彼女は、ここでは幸せになれない。早く出してあげなければ……)

 ―――その思いだけを、心に秘めて。




 ・・・その数日後。

 王国中に、ある御触れが書かれた手紙が発布された。内容は―――『王子の持つ硝子の靴に、ぴったり合う女性を探している』というもの。その話の終わりには、こう書かれていた。

 ―――『第一王子は、』と。

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