第6話.Merry Christmas. again

僕が愛する人は血の繋がった実の妹。

それが世間ではタブーであるのに、僕はそのタブーを犯してしまった。

たとえこの世界で、許されざることであろうとも。

愛する気持ちに変わりはない。


メイリアへのクリスタル移植は無事に終わった。

この世界の医学、科学の水準は僕らの世界より、はるかに高度な文明の域に達していた。しかし、このクリスタルをメイリアに移植するためには、この世界では旧式とも言える僕らの時代のオペという行為がどうしても必要だった。


メイリア・ディアス。彼女の体内にクリスタルは収められた。

クリスタルは彼女の体の一部となり、その原型を変化させていった。

それと同時に、クリスタルで固められたまやみの姿は徐々に消え失せていく。


メイリアはまやみが生み出した思念の幻影。その姿はまやみに変わる。

だが僕はその経過を見ることはできなかった。

この世界にいられる時間が迫っていたのだ。

僕はこの世界に自分の意思で来たわけではない。だから、ほんの一時の時間しか存在することが許されなかったのだ。


もう残りすくない時間。それは僕がこの世界から消滅することを意味している。

また、元いた世界に僕らは戻ることはできないだろう。

でもそれでいい。

僕は罪を犯したのだから。

だから、僕たち二人はバツを与えられた。

僕たち二人は罪深き人間なのだから。


ただ気がかりなのは、医者を辞めたはずのこの僕は、この世界では権威ある医師として迎えられたことだ。

でもそれはそれでいい、気にすることさえ小さなことだ。

まやみがもう一度、目を覚まし、彼女がまた幸せに生涯を過ごせるのなら。


それでいい。


愛する人がもう一度、その幸せを見いだせる力を持つことができるのなら。


僕はそれでいい。


メイリアの意識が戻り、ゆっくりと目を開け始めた。その瞳は僕の姿が映し出されている。

彼女が放した言葉それは


「お兄ちゃん」


その一言で僕はまやみが帰ってきてくれたんだと、涙を溢れさせ彼女の手を握った。

だが、僕のその手は次第に透明度を増していく。

この世界にいられる時間が残り少ないことを意味しているのだろう。

僕はこのまま、静かに消えて、この世界からも消えていくのだろう。

ようやくまた会えたまやみを一人の残し、僕はこの世から消え去る。


「まやみ、ごめんねな。もう時間が来たようだ。最後にまた、まやみに出会えて嬉しいよ」

「お兄ちゃん」

力が抜けるように僕の体は透き通り、その影は消えていく。

「またきっと、会えるから。私を救ってくれてありがとう。また必ず出会える、そして私はあなたを愛し続けることができる。きっと、その日が来るまで」


彼女の姿がうっすらと遠くに見えるように、僕の体は静かに消え失せた。

この世からも、そしてこの聖地とも言えるこの世界からも僕の存在は消え失せた。



風力発電の大きな羽がまゆっくりと回り始める。

気がついた時、僕はあの海辺の公園のベンチに座っていた。遠くから「カノン」が聴こえてくる。

ふと僕の手に暖かさを感じる。

その横に僕の手をしっかりと握る愛しい人がいた。

空からは、静かに雪が降っていた。

「どうしたの?」彼女が不思議そうに僕の顔を見つめた。

「なんでもないよ。夢を見ていたんだ。サンタクロースからの贈り物の夢をさ」


まやみ愛してるよ




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クリスマスの夜に さかき原枝都は(さかきはらえつは) @etukonyan

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