07-4 協奏
『人間が持つ観念は生得的なものか?』
「感覚と反省ですね?!」
『その通りだ、プティよ。人間は感覚器を通じた経験により、内なる心の様々な作用を知覚する』
「生得観念は、本当に無いのでしょうか? ロックウェル先生」
『子供は生まれたときから言葉を理解できるか? それを考えれば明らかであろう』
「でも、道徳とかは、子供の時からあったりしませんか?」
『子供は時に残酷な行動をとる。アリの巣に爆竹をしかけるなどの行動を道徳的だと言えるか? また、道徳は、人によって変わるものであり、事前に定義できるものでもない』
――
――
――
「この白いモビルティーチャー、かなりやっかいだ!」
コムロ少年は操縦桿を強く握った。
『経験論タイプであるな』
カントムは、ロックウェルをそう評した。
「ロックウェルが好む議論を、上手く引き出しながら戦っている。俺もプティに負けていられないな。デカルトン先生! ワレモノ・ライフル!」
『ライフルは存在する。なぜならば、我が、我の物だと思っているからだ』
「ええい! いい加減、観念を共通化したらどうなんだ! ライフルを構えて、近づく敵に発射!」
『はじめからそう言えばよい』
相変わらず、コミュニケーション・エラーを起こす、デカルトン先生とシュー・トミトクル。
モビルティーチャーの運用における、最大の問題点。
それは、「出力」と「操作性」のトレードオフ関係にある。
思考金属ニョイニウムに哲学者の思考を学習させているため、モビルティーチャーは基本的に小難しい。
したがって、コムロやシューの如く、コミュニケーションエラーが起きやすい。戦闘中のコミュニケーションエラーは、時に致命傷になり得る。
「どうする? デカルトンの
操作性を重視すると、今度は思考の練りが浅くなって、武器出力、装甲、機動力等のスペックが上がらない。思考に基づいて変化する思考金属ニョイニウムで出来ているからだ。
シューは、二律背反の最適解を出せずにいた。
ニュニュニュニュニュ!
カントムから、ア・プリオリ・ライフルの弾丸が発射された。
「考えのまとまらないうちに!」
「シュー先輩! 私が!」
カントムの弾丸は、弾幕によって阻まれた。モビルティーチャー・ロックウェルは即座に横に跳び、カントムに的を絞らせない。
「速い!」
コムロは、ロックウェルを目で追いきれない。
二律背反を、黒髪の後輩
白紙の心が生じさせる『適切な』疑問をモビルティーチャーにぶつけ、思考を練る。その疑問はモビルティーチャーに自然に受け入れられるため、コミュニケーションエラーも起こりづらい。
(哲学に素養のある新人だからこそ成立する、ビギナーズラッシュか……)
「その調子だ、プティ」
「ありがとうございます!」
「思考の繋がりの良い前衛と、判断の早い後衛かっ……くそっ、突破できるか?」
コムロには焦りが生まれていた。
2機の攻撃に、おかっぱ頭のカントムは、大きく態勢を崩した。
「くっ!」
「プティ、今だ!」
「はい!」
機動に移ろうとするカントムを、デカルトンとロックウェルによる十字砲火が襲った。
「ぐわうわうわ!」
十字砲火に襲われたカントムは、一方の砲撃をア・プリオリ・ブレードで撃墜成功。しかし、もう一方を被弾。
『ヤバいという概念は、あまねく人間に共通の認識であろうか?』
「えっ、わかるの?! その概念が?! それもヤバい!」
『広範な概念であるが』
人間とは身体図式の異なる金属の塊であるカントムは、その概念を理解していたようである。
(なにか、打開策は?)
シートから取り出した哲学書のページを、左手の、震える指で繰るコムロ少年の下に、
「プティ! このまま
「
『少女の方が』
『『より正確に事象を把握している』』
カントムに乗った少年の命をその手で奪い去ろうと、2機のモビルティーチャーが迫る!!
しかし。
ドッチュウウウウウ!
――
ドッチュウウウウウ!
コムロとカントムに、天啓の代わりに降りてきたもの。それは。
遠々距離から放たれた、2条のライフル弾であった。
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