05-2 力の源泉


「見えた! 見えました!」

 通信士は、思わず席から立ち上がった。無重力にバランスを崩し、回転しながら宙を舞う。


「ついに来ましたな、艦長」

 のっぽの副官ビヨンドの声は弱く、疲労の影が、ありありと伺えるものだった。


「ああ。あの光点群が、我が軍の合流ポイントだ」

 丸顔の艦長、キモイキモイはそう言って、大きく息を吐いた。そして息を吸い、ゆっくりと吐き出したふうううううう


 ニョイニウム採掘星からの逃避行。その疲労の極にある乗組員達の目には、前方スクリーン越し見えたその光は、まさに希望の光だった。


「まずは友軍と合流し、補給を受ければ、我々は戦える」

 キモイキモイはそう言って、仲間達を鼓舞した。


「決戦ですか?」

「ん。敵軍は本国からの長距離遠征部隊で補給線が長い。我々は、辺境そのものが補給線だ。ここに有利さがある。そして我々は、生き残りさえすれば勝ちだ。なぜなら我々の新天地は、地球ではなく、辺境の奥へ奥へと広がりつつあるのだから」


 しかし。


 飛来する数条のエネルギービームが、キモイキモイ取らぬタヌキ達の皮算用を打ち砕いた。



「て、敵です!」

「前方の光点は、友軍ではありません! 敵です!」

 オペレーターの報告は、ヒステリックに裏返っていた。


「そんな……!」

「なぜだ。なぜそんなことになる」

「終わりだ。もう無理だ」

 一度の安堵で、気が緩んだ所を狙われた。彼らの狼狽ぶりは、まさに右往左往。


(これは……まずいな。仲間のこの精神状態で、この死線を切り抜けられるか……)

 指揮シートの艦長が、顔を小さく左右に2回振り、深めに息を吸い、声と共に吐き出そうとした時。



「僕が行きます」

 ブリッジに響いた声は、少年のものだった。


「コムロ?」

 驚いたモラウが操作卓コンソールに取り付き、確認すると。



「艦長! カントムの中です! コムロはカントムの中に居ます!」


「なんだって?!」

「そんなに早く乗り込めるはずは……」

 艦長と副長とが、お互いの顔を確認し合った後、少女モラウの方を同時に見やった。


「コムロ、そこで一体、何してたの?」

「対話を。それが、僕にとっての散歩のようなもの日課だから」


「そうか……」

 ビヨンド副長の顔に、生色が戻る。


「そうだったな、忘れていた」

 キモイキモイ艦長の口の端が、心なしか上がる。


 キモイキモイ艦長をはじめ、乗組員達は忘れていたのだ。


 補給も受けられぬ逃避行。

 その終着付近で、目の前に多くの、敵の光点が立ちはだかっている。


 しかし、今ここには、存在するのだ。

 枯渇する一方である物資とは異なり、力を新金属。その名を『ニョイニウム』。


 その金属の塊は、力を産み出す源泉を。

 コムロ少年を得ているのだ、ということを。


「艦長。発進許可を願います」

 そのコムロの申請は。


「たのむ、コムロ君」

 艦長に伝わった。



『それは自律的行動と言えるのか? 我が生徒搭乗者スチューロット、コムロよ』

 カントムが問う。



「行動の結果はわからない。でも、やるべきことだとわかっている」

 コムロは静かに言った。


 そこには、気負いの成分は含まれていなかった。

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