幕間 艦長就任

 概念宇宙歴0157O-157年。

『フロンデイア連合』なる呼称が、まだ宇宙に存在していなかった頃。


 宇宙移民の船団の中に、とある父母が居た。


「くそ、かわいいな」

 オギャア、オギャア。


「ほっぺが赤くて、とても綺麗ね」

 オギャア、オギャア。

 オギャア、オギャア。


「うるせー!」


 ……。


 残念なことに、その父母はDQNであった。

 しかし、子供を溺愛する事、極まりない。


「綺麗な名前が良いよね?」

「綺麗な名前にしようぜ!」

 父母はハモった。4度ずらしの方で。


 綺麗と綺麗を重ねて、「綺麗綺麗キレイキレイ」と名付けようとしたのだ。綺麗綺麗キラキラではなく。


 しかし、出生登録の際、とある悲劇が発生した。


 そもそもの発端は、この父母が、難しい漢字を書けなかった事にあった。


 念願の男児に恵まれた喜びで、手が震えたのだろうか?

 フリガナの欄に、父親はカタカナで「キレイキレイ」と出生届に記入した……つもりであった。


 だが。


「これでは”L”です。”レ”としたいのなら、二重線で消した上で、その右上あたりに書き直してくださいね」

 年末の駆け込み対応に忙殺されていた役所の職員は、苛立ちをなんとか抑え込んだような口調で、早口にそう言った。


「ちっ。ほらよ!」

 と、DQN父は、出生届を職員につき返す。


 おざなりに引いた削除用二重線は、”L”の部分にだけ引かれた挙句、”レ”をその上に書き直すステップを、DQN父は完全に失念してしまったのだ。


 登録事務を担当した職員も、忙しさもあって確認を怠り、書類をそのままスキャニング。問題点に気づかないまま、登録処理を進めた。


 その結果。


 成長した青年将校が、フロンデイア軍の新造戦艦『ハコビ=タクナイ』の初代艦長に就任するのは、20年以上先の事となった。

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