04-3 本来の姿
「やはり、罰を与えなければなりませんか?」
「そうだね、ビヨンド」
白を基調とした戦艦の一室で、艦長キモイキモイは首肯した。
「モラウ君は、
「コムロ君の支援の結果な。そして、結果が出るなら隊規を無視して出撃していい……となれば、他の乗組員に示しがつかんだろう?」
「それでは、そもそも民間人のコムロ君を、カントムに乗せた事はどうなるのですか?」
「それは現地徴兵として処理した。それに……」
丸顔の艦長、キモイキモイは、艦長室のドアが施錠されていることを、目視確認した。次いで、通信機がオフになっていることも確認し、小声で口を開いた。
「ダイが上に引き抜かれた状態で、退却戦が始まってしまったからな」
「それはそうですが……」
「我々が生き延びるには、スーパーエースの代わりに、コムロ君に乗ってもらう以外にはなかったんだよ」
「余人をもって代えがたい……厄介な兵器ですね、モビル・ティーチャーは」
のっぽの副官、ビヨンドは嘆息した。
「戦争は、ニョイニウムの本来の使い方ではないからね。思考金属ニョイニウムは、兵器ではなく、次世代のリーダーを育てるためのものだったはずだ」
「いろいろと、歪んでおりますな」
「ああ。だから、戦争は早く終わらせなければならない。我々
艦長のキモイキモイは、そう言って腕を組み、考え込んだ。
◆
「モラウ、2日間の辛抱だからね」
コムロは、格子扉の小窓越しに、幼馴染に声をかけた。
「うん」
「モラウ君、これに懲りて、勝手な行動は慎んでくれ」
艦長キモイキモイは、表情を消していた。
「すみませんでした」
モラウはおとなしく椅子に座り、膝に手を置いた。
「さぁ、いくぞ、コムロ君」
「はい」
キモイキモイとコムロの2人は艦内エレベーターを降り、戦艦の下部エリア、後方ブロックへと移動した。
後方ブロックは薄暗く、金属のパイプが天井をむき出しに這うように交差していた。作業スペース確保を第一とする為、余計な物は置かれていない。
その後方ブロック、通称「修理ブロック」には、右腕を失ったカントムが、|簡略化されたポリゴン的な形状で収容されていた。
「修理の進捗は?」
艦長は、遠くで作業をしている整備員に聞いた。
「修理だあ? そもそも壊してんじゃねえよこのクズ艦長が」
灰色のつなぎを着た、短髪白髪に、いかつい風体の整備員は、艦長につかみかかった。
「わぅわぅ」
首根っこを掴まれたまま、変な声を出して左右にシェイクされる、キモイキモイ艦長。
「すみません。僕が出撃しなかったから……」
「あ”?」
コムロが整備員と艦長の間に割って入った。
「お前か。ダイの
「は、はい」
「そうd、おえぇぇえ」
恐縮したコムロと、首を絞められてえずいた艦長とが同時に回答した。
「ダイがデュイエモンに乗ってた時は、右腕がぶった切られるなんてヘマ、一切無かったってのによ。戦争舐めてんのか? お前ら」
「あでっ」
「あだっ、うえぇぇえ」
「おら、来いよ、青二才ども」
「ええと」
「ガズ、おええええ」
ガズと呼ばれた整備兵は、コムロの袖と、キモイキモイの肩口とを左右の腕でむんずとつかみ、ひきずるようにして、巨大な金属の塊の所へと連れてきた。
「新しい腕を、本体に接続する所なんだよ。ニョイニウムの変形作業、手伝ってけ」
「え?」
「適任だろ? 坊主。思考力が人並外れた、
「思考が――修理にも関係するんですか?」
「当然。ニョイニウムの特性、知ってんだろ? お前」
「……思考に反応して、特性を変えるんでしたよね」
「わかってんじゃねーか。お前の思考を接合部に注入して、本体と腕とを、ロウ付けみたいに接合すんだよ。俺らがやるより速えぇだろ? その方がよ」
「そういうものですかね……」
「そういうもんだよ。なぁ」
整備員はそう言って、コムロの肩をバーンと叩いた。かなりの力で。
「いでで」
苦悶の表情を浮かべるコムロ。
「で、艦長は雑用だ。そこの部品を片付けとけ」
「ちょっと、しこたまあるんですけど……ガズ先輩は厳しいですよ。うぇええ」
◆
「よし、作業終了! あとは少し時間をおいて、接合強度チェックだ。ご苦労さん」
「ふう……」
カントムの腕の付け根辺りに直接接続されたコイル・メットを頭から外して、コムロ少年は一息ついた。
「うああ”、うげぇ”」
丸顔の艦長キモイキモイは、慣れない重労働で、完全にへばっており、床に転がってのたうち回っていた。
「ほれよ」
灰色のつなぎを着た整備員ガズが、コムロに放ったそれは、携帯用チョコレートだった。
「甘いもの補充しとけ。頭使っただろうからな」
「あ、ありがとうございます」
工事現場の足組みのようなところから、無重力に任せて床面へと降りた整備員ガズとコムロ少年は、
数瞬の沈黙。
「なぁ……お前」
「はい」
「アホくさいと、思わねぇか?」
「なにがです?」
「戦争がだよ」
「ええ……」
コムロが視線を転じると、灰色のつなぎを着た男は、右手を握ったり開いたりしていた。
「思考に応じて自在に変形する、思考金属ニョイニウム。技術者の俺からしたら、こんな面白れぇ素材は無いってのによ」
「はい」
「どんだけ面白ぇモノが作れるか、って話なのによ。人殺しの道具なんだぜ? 今、必要とされているのは」
「……」
コムロは、何も返せなかった。
「敵も味方も、お前みてぇな頭の良い奴等が揃ってんのに、なんで戦わなきゃならねぇんだ? アホらしいと思わねぇか?」
「まったく、そうですね……」
「せめて、さっさと決着つけてくれよ? この、くだらねぇ戦争をさ。俺らにゃできねぇことだから」
灰色つなぎのガズは、そう言ってコムロの頭を手でワシャワシャとやり、そして、部品の後片付けを始めた。
「キモイキモイ、寝るなら端っこで寝ろや。片づけの邪魔だ」
「ぐええ」
コムロは理解した。
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