第1章 遭遇、シューとコムロ
01-1 日常の終わる時
概念宇宙暦
デブリの海を超え、
赤色巨星の爆発、磁気嵐。幾多の困難を乗り越え、新天地を切り開かんとする彼ら彼女らは、自らを『フロンデイア連合』と呼称していた。
5月。第2船団に属する60隻、2000名余りが、小惑星帯付近で消息を絶った。
安寧の地を持たない彼らは、困難の中で知を保ち、次世代の指導者を育てる必要があった。リバタニア帝国の圧政から逃れ、自由を手にするそのために。
そのために開発されたのが、「ティーチャー」と呼ばれる、大型の金属であった。
宇宙線に耐えられる、防壁で守られたコックピットで、生きる知恵を学ぶ。学を修めた「スチューデント」は次世代のリーダーとなり、更なる新天地を切り開いていく。
しかし、辺境の惑星で発見された新金属(?)が、事態を急速に進展させた。
人の歴史は、戦いの歴史である。繰り返しの物語でもある。
既得権に安住するリバタニア。
新天地を求めるフロンデイア。
二大勢力の争いは、拡大の一途を辿った。
戦いの中で、「ティーチャー」という概念も、変革を迫られた。
ティーチャーが持つ、宇宙の悪環境に対するものであった防壁を、戦闘用の装甲として転用し、スラスターと武器とを搭載し、戦争の為の道具として使われるようになったのだ。
◆
「コムロ、おはよう。ご飯作ってきたけど……」
コムロ・テツ少年の部屋のドアを開けた幼馴染の少女、モラウ・ボウは、室内を見るなり絶句した。
「また本をこんなに散らかして。片付けてって、いつも言ってるでしょ」
ミニスカートから出た足をちょこんと曲げてしゃがみ、床の本を拾いながらモラウは言った。手入れが大変と言われる、ミディアムの長さの髪がファサリとなった。
女子のキビキビとした動作とは対称的に、コムロ少年の動きは緩慢だった。
ボサボサ髪の少年は、コタツのテーブルにペタリとくっつくように体を預け、本を持つ両腕をテーブル上に投げたしたまま、顔だけをクイッと少女の方へと向けた。
「散らかっている方が落ち着くんだよね。混沌が僕に天啓を指し示すかもしれ……」
「難しい話はしないでって、いつも言ってるでしょ!」
コムロは怒られた。「怒る」という感情は、一体どこから生ずるのであろうか?
「朝ごはん食べないと。頭も回らないでしょ?」
散らかった本をザックリと片付けた少女モラウ・ボウは、「食べると眠くなるんだけどなあ」などと、既に眠そうにブツブツ呟くコムロ少年の部屋から、一度消え、そしてトレイを持って戻ってきた。
「はい、温かくしてあるから。うちの残り物で悪いけど」
ご飯に汁物、焼魚の、和風なメニューが並んでいた。
少年に、ただ一人での食事などさせまいとする気遣いが、汁物から立ち上る湯気に現れていた。
コムロはトレイを受け取り、言った。
「味噌汁か」
「近所からダイコンをもらったの。痛む前に、使ってしまわないと」
「モラウ・ボウ。君は本当にいつも、棒を貰うね」
「そういうのはいいから!」
少女モラウが言った、その時。
外から、物凄く大きな
「えっ? 何!?」
困惑し、硬直する少女モラウとは対称的に、コムロ少年は、先ほどまでとはうって変わって俊敏な動きでコタツから抜け出し、無線ラジオに取りついた。あたかも「うってかわって」で例文を作る場合の如く、麻薬を打って変わってしまったのだろうか?
ピーガガガ
『……き襲! ガッ、敵襲! ガガッ、リバタニア軍が来襲! 各員応戦を! 後方支ピガッ隊は民間人の避難と救助に当たれ!』
「そんな……」
少女モラウは、唖然として、コムロ少年の顔を見やった。
少年の顔からいつものボンヤリ感が消えている事と、お椀からこぼれてトレイに拡がる味噌汁の湯気とが、『平和だった日常の終わり』をモラウに理解させた。否応なしに。
へたり。
床に座り込む少女の手を、少年が取った。
「逃げるぞモラウ。急げ!」
それは、思考などそもそも不要な程の、自律的な行動であると思われた。
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