第2話
翔真side
『私と、別れて』
彼女とデートにきて、突然告げられた言葉。
いきなりのことで面食らったが、そっと目を伏せた。
考えろ、俺。
絶好の機会じゃねぇか、俺。
できるだけ傷つけることなく心と別れられるんだぞ?
考えようとすると白いモヤがかかるようになった、使えない頭で必死に答えを探す。
どれだけ時間をかけたところできっと、俺の答えは変わらないのだから意味が無いだろう。
俺は、心と別れたいのだから。
ゆっくりと目を開けて、
「…何故?」
と聞けば、
『飽きちゃったの、翔真に。他に、好きな人が出来ちゃったっ…。』
涙ながらに語られた事実に、心臓のあたりがドッと抉られた気がした。
痛い。痛い。痛い。
それは俺の精神的なものなのか。はたまた肉体的なものなのか。
それは分からないけれど、とにかく痛かった。
ふっ、と息を吐き、覚悟を決める。元々、このつもりだったんだ。最後のデートにするためだったんだから。
だけど、俺から別れを告げればよかった。俺が早く言わなかったばかりに、心を泣かせてしまっている。
苦しめてしまっている。
「……分かった。」
心の涙をそっと、親指で拭う。頬を撫でるように。
「別れよう。」
きっと、もうすぐすれば俺じゃない男が隣に立つだろう。
心の魅力は、周りの人間が1番理解しているから。
もしも、そうなった時は。こうして泣いている心の涙を拭うのは俺の役目じゃない。
永遠を望んでいた。馬鹿みたいに愚直に。
なんて、脆くて儚い理想だろうか。
店内の音楽が、しんみりしたものから、少しだけポップな印象を受ける音楽へと変化する。
心が窓を見たのにつられて外を見れば、先程まで土砂降りだった雨は、小雨になっていた。
辺りも薄暗くなり始め、何時だろうかと腕元に視線を落とす。
「そろそろ帰れ、心。もうすぐで暗くなるから先に帰れ。
………………最後は、辛いだろ?」
送ってやることは、出来ない。
別れ話をされたのだから、送るのは賢明な判断では無いはずだ。
他に好きな男が出来たと言っているのだから。
それに、ガタが来てる体ではそんなに遠くに行くことは出来ない。
お金を机に置こうとするから、最後のケジメで俺から払わせてくれと手を押し戻した。
笑って、伝える。
「じゃあな、心。
また明日、学校で。」
『うん。また明日。』
心は涙で濡れた顔で。目元を赤色に染めて、帰路に着いた。
目の前は、いなくなった彼女の空きスペース。
やはり、残される者の立場は悲しい。
だけど。それは、心は一生知らなくていい事だ。
心は、新しく好きになった男と幸せになればいい。
俺はもう、残すことしか出来ねぇから。
「なんでよりによって、俺が病気なんだよ。
しかも、明日から隣県で入院って……。」
もう二度と、心に会えることは無い。
だけど。
もしも、また、会えるのならば。
望んでもいいだろうか。
「他の男の隣なんかじゃなくて、俺のそばにいてよ」
口に出して言うことは、許されるだろうか。
雨音が完全に無くなって、窓を見れば、
大きな虹が、空へと掛かっていた。
『翔真!』
どこかで大好きな君の声が、聞こえた気がした。
終
だからどうか、笑ってて 星乃雫 @hsnr
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