だからどうか、笑ってて

星乃雫

やまない雨

第1話

今日は、最後のデートにするって決めていた。


『雨、降ってきちゃったね、翔真(しょうま)。』


「ああ。」


私、心(こころ)は彼氏の翔真と共に喫茶店から止まない雨を眺めていた。


いつもは、優しく微笑んで目を合わせてくれる翔真がぼんやりとしている。


『……翔真、どうかした?』


「あっ、いや、なんでもない。悪ぃ。」


『ううん、大丈夫。』


「これから、どうすっか。」



雨も降ってきたし、どこに行こうか、という話なのだろう。


まだ雨が降れば肌寒い季節で、頭が少し痛くなる。


外の雨も、結構激しいので、いくら傘を持ってきたと言ってもこの喫茶店内を出ないのが賢明な判断だろう。


外にある植物が、雨粒を受け葉が弾んだ。


「ここで、雨宿りすっか。」


微笑んだ、翔真。


それに、


『……翔真、話があるの。』


否定も肯定もせず、話題を変える。


自分勝手だけど、許してね?



翔真の問いかけを無視したことも、



『別れて』



私の、ワガママも。



翔真は、驚いた顔をしたあとに、目を伏せた。だけど、それも一時的なものですぐに大きな瞳が瞼から覗く。



翔真の目が好きだった。色素が薄めの茶色の瞳は、瞳孔がよく見えるほどに透明感があって、硝子玉みたいで、綺麗だった。


「…何故?」


さっきは一瞬、あっけに取られた顔をしていたけどもう今は覚悟を決めたような顔をしている。



ツキン

ツキン

ツキン



さっき感じた痛みは止まない。むしろ、だんだん酷くなっている。


まぁ、それも仕方がないのかもしれない。



『飽きちゃったの、翔真に。他に、好きな人が出来ちゃったっ…。』



全部、嘘だ。今もまだ、こんなにも好きなのに。私は結局どちらに転んでもエゴで翔真を振り回すことしか出来ないから。



すぐに、覚悟を決めたような顔をされたのは少し、悲しかった。


やっぱり私は、


『ごめんねッ……ごめっ……んね』


泣き虫のエゴイストだ。



ツキン

ツキン

ツキン

ヅキン



だって私はもう、君の隣には居られない。


私は、




病気だから。



「……分かった。」



そう言って、翔真は私の涙を拭った。


「別れよう。」



実際は。現実は。少女漫画のように愚直に信じることなんてないんだ。



終わりを切り出せば、呆気なく終焉する。


そんな、世界なのだ。



それでも、引き止めて欲しいなんて、馬鹿だよね。



店内の音楽が、しんみりしたものから、少しだけポップな印象を受ける音楽へと変化する。


外を見れば、先程まで土砂降りだった雨は、小雨になっていた。


翔真が、外をみる。そして、自分の腕時計に視線を移す。


「そろそろ帰れ、心。もうすぐで暗くなるから先に帰れ。


………………最後は、辛いだろ?」


翔真は悲しそうに笑って、言った。



____最後は、辛いだろ?



そのままの意味だ。最後の1人になるのは、辛いだろう?と。


この人は、どこまで優しい人なのだろう。



「じゃあな、心。


また明日、学校で。」



『うん。また明日。』




私に明日は来ない。だって、私は、明日から隣県の病院に入院するのだから。


もう、翔真と同じ学校に通うことは無い。




ごめんね、翔真。



さようなら、私の初恋。




翔真。我儘な私を許して、なんて言わない。だから、どうか。君の幸せを遠くから祈ることだけは、させてください。






大好きでした。

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