第25話 過去と未来とバブル期の超豪華中華丼

 お多福がエイリアンを連れてきた。


「こちらの方が~、御用との~事で~ござりまする~」

 なんだ、久しぶりだな。出ていって何年ぶりだ?


「やーねー、女の子に歳なんか聞いちゃダ・メ・ダ・ゾ! でも、ほーんと久しぶりよねぇ」

 お前、女の子ってツラじゃねえだろ。


「女生に~外見の~話をするのは~。悪しゅうございまするよ~」

「そーよそーよ。こう見えてあたし、仲間内じゃ女王様なんだから。クィーンよ、クィーン!」

 それは知っとる。卵埋め込んで回ってたじゃねえかお前。


「は~。蟻みたいでござりまするな~」

「虫扱いとかマジムカー。でも、あたしは心がひろーいから許してあ・げ・る・ゾ」

 相変わらず殴りたくなる口調だよなお前。


 で、どうした急に。またそんなにヒマなんか。

「それが最近は忙しんダゾ。まあ、ヒマでヒマでしようがない時もあったけどネ。でね、新しい仕事で荷物整理してたらこんなの出てきたんだゾ」


 懐かしいなデラックスパックってヤツだな、確か。

「はえー。これは豪華な~箱の~……即席麺でございますか~?」

 やたら豪華なスープ入った真空パックがついててだな。そいつをお湯で返したインスタントラーメンにぶちこむと超豪華ラーメンの出来上がりってヤツだ。

「そうそう。本当に無駄な事やってたわよネ」


 今なら真空パックの生麺とか、そんな感じだろうなぁ。

「台無しでございますか~?」

 そらお前、所詮はインスタントラーメンだぞ。

「お店の麺に比べると、ねえ?」


「昨今の即席麺は~なまなかならぬ味と~聞き及びまするが~?」

 昨今の物じゃねえもんよ。


 まだ油で揚げてる時代だったろ。確か。

「フリーズドライが出始めた頃じゃなかったかしら。アラやだ、そんな昔ィ?」

 昔も昔だぞ。


 つうか、こんなモン発掘してきてどうすんだよ。

「ダイジョーブ。時空凍結してたから新品同様ダゾ」


 本当に改めて、殴りたくなる口調だよなお前。

「ホント。あんたは全然かわらないんだから~。そんな所も久しぶりで・う・れ・しー」

「神妙の域で~。ひとの心を~逆撫でまするな~」

 こいつ、殴ると溶解液出すからタチが悪ぃんだ。


 まあいいわ。で、この豪華インスタントラーメンを食うためにわざわざやって来たんか。

「そーよー。何か凄く懐かしくなっちゃってね。やっぱ、いいオンナは思い立ったらすぐ行動? みたいな?」

 ヒマだなぁ。

「ヒマじゃないって言ってるでショ!」


 さて、肝心の中身は。フカヒレあんかけに、こっちはアワビか。

「こちらは~。牛さんの肉でございますね~」

 ピーマン無し青椒肉絲だな。

「この間~。頂きましたる~肉なしチンジャオとは~、真逆でござりまするな~」


 本当に無駄に豪華だな。つうか、即席麺に乗っけるのは勿体無ぇな。本当に。

「確かにそーよねぇ。それじゃ、何か美味しくなるようにヨ・ロ・シ・ク!」


 じゃあどうすっかな。手打ち麺とか面倒くさいしなぁ。まあ、安定取って中華丼にすっか。

 お多福頼むぞ。

「あ~いは~い」

「あ~ら。こちらのお嬢さんがどうするワケ?」


 ほれ、洗面器。


「で~わ~。……ウォロロロロ……ウボロロロロロロ……」


 おージャラジャラ落ちとる。今日も大漁だな。

「ちょっとぉ! 何よこれ」


 ん。こいつ、米を吐くんだよ。

「粟稗大麦も妾は大丈夫ですよ~。小麦は少々お待ちを~」


 小麦はいい。出す場所違うだろ。


「どこなの?」


 ケツ。


「サイテー」


 だから止めさせたんだよ。


「オンナの子の前でケツとか言っちゃダメダゾ!」

 どこが女の子だよ。

「妾でございますよ~」

「あたしよあ・た・し!」

 お多福はともかくなぁ……。


「っていうかさー。女の子っちゃ、魔女ちゃんどうしちゃったワケ?」


 は? あいつはとっくに出ていったぞ。

「ハァ? はこっちのセリフよ。ナニあんた、いい雰囲気だったじゃなーい? 逃しちゃったワケ? バカねえ」


 いい雰囲気ってな、お前。

「大分前に~いなくなられた~女神どのに~。操立てられていると聞き及びましたるが?」


「えー、女神なんて聞いてないゾ! 誰々?」

 誰だそんなデマ流しとるのは。


「言っていたのは~。エビどのでござりまするが~」

 あいつか。あの野郎、覚えていろよ。

「エビどのの~言われるには~」


「あいつに教えたのはオレだな。てか、惚れてたようにしか見えんぞ、常識」

 おいおい。今日は懐かしい顔が出てくるな。


「誰? このでっかい人」

 でっかい人だ。

「超~、分かりやすいでございまするな~」


「久しぶりに顔を出してやったんだから、少しは喜ぶもんだぞ常識」

 ずっと居るとか言ってたクセに、すぐにいなくなったヤツが言うセリフかよ。

「オレの場合は事情があったんだからしゃあねえだろ、常識」

 事情無しでいなくなるヤツの方が少ないんだよなぁ。


「ちょっと待って。この人知らないんだけど、女神さんってダレよ? 魔女さんでしょ?」

「オレもこの兜虫の親玉見るのは初めてなんだが。魔女ってアレか、こいつが火付けに使ってる箒の」

「アンタ。あの子の残してった大切なの、そんな事に使ってるの? ひどいじゃない!」


 なんでこの流れで責められてるんだよ、おれ。

「普段の~行いでは~ありませぬか~」

「つうか、魔女ってのはどんなんだったんだ? 想像はつくんだが」


 なんで想像つくんだよ。

「だってほれ。あのエロ女神見ても分かんだろ、常識」


「魔女ちゃんねー。背が高くて脚が長くてェ」

「ケツがでかい。だろ常識」

「そうそう。安産型ね」

「好み変わってねえじゃねえか」


 うっせえよ。後別に惚れちゃいねえっつってんだろ。

「どうしてこう。こいつは色恋を避けようとするんだろな」

「トラウマ~、というものが~あるのでは~?」

「あの時期はそういうのが格好良かったのよネ!」


 どの時期だよ。


 だからそういうんじゃねえんだよ。

「ハイハイ。枯れてるアピールはいいのよ」

「あの時期っつーのはどんなんだよ?」

「ほらー。世の中景気良かったじゃない? 世捨て人っぽいのが人気だったのヨォ」


 世捨て人が一定の人気なのはいつもの事じゃねえのか。

「でも、あの頃の人気は凄かったじゃない。若者はみんなヒッピー旅行に行くみたいな?」

「行った先で~。おおあさなどを~吸う~習慣を見に付けて戻るのでござりまするね~」


 流行りの元はもっと前だったろ。

「あの小説読んだ連中が、オヤジになった頃だったもんネ」


「若い頃の格好いいに、歳食ってから憧れたり若いのにやらせたがったりするアレか。どこにもあるんだな」

 それも何度も見た光景だな。

 若者はなんとか離れとかそういうのだな。


「オトナになってみると分かるけど。そのオヤジ達も若い頃に同じ事はやってないのよネ」

「年寄りは若者のに理想を求めるんだよ」


 お前もそんな事言う歳になったんだな。でかぶつ。

「うっせ。オレはいつまでも若いからいいんだ」

「そのような事を~おっしゃる方は~」

「たいていオヤジよねー」


「かしましいなこいつら」

 まあ、一応女らしいからな。


「まあ、脚長ケツでか女はいいとしてだ」

 ぶっちゃけ、後腐れの無い付き合いだったら、お相手したかった。


「後どころか、腐れっぱなしだったからな。あの女神さまは」

「魔女ちゃんもまあ、そんな感じよね」


 やっぱり、女抱くならトルコだな。

「トルコ風呂なんていつの時代の言葉よ」

「今はソープっつうんだぞ」


 いいんだよ。おれは年寄りなんだから。

「まあいいわい。で、女はいいとしてだ。こいう話してっと出てくる人いるだろ」


 テイさんか。

「ひのと様でござりまするか~?」


 テイさんって、そう読むんか。

「そう読むんだ。知らなかったわー」

「知ってる奴いねえんじゃねえか」

「こちら様は、かのと等と読まれていたでござりまするが~」


 読み方なんてわかんねえよ。

「そういや、見かけ無いけどテイさん結局どうしたのよ? まさかとうとう出ていった?」


 どっかで王様やってるって聞いたぞ。

「この間来た書状では~、砂漠を放浪されているとか~」

「何やってんのよ、あの人」


「ある意味変わっちゃいねえな」

 まあ、その内ひょっこり帰ってくるだろ。


「そういうお前はどうなんだよ?」

「そうね。何人も見送ってるアンタが卒業する日が見てみたいわ」

「その日は~妾も~お祝いいたしまるすよ~」


 いや。おれはねえだろ。

「何でだよ。お前の事だから、皆の帰る場所をとかって理由じゃねえだろうけど」


 引っ越す金なんてねえもん。


 メシが炊ける匂いがした。

 いい具合に温まった高級食材どもが、白米に絡んで香ばしく匂い立つ。

 コポコポと一升瓶から日本酒が落ちてくる。


 遠くの空で鳥が鳴いた。

 いつだったか、窓際で鳴いていた奴は何回冬を越したのか。それともどこかで野垂れ死んだのか。

 ぐぅ。と腹の虫が騒ぎ出す。


 今日も美味い酒が飲めそうだった。

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おれと丁さんとトコヨ荘の貧乏飯 はりせんぼん @hally-sen

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