第24話 ムジナと天カスとたぬき丼
本日のメシはたぬき丼にしようと思う。
「タヌキを食べるのですか……。流石にそれはどうかと思いますよ人の子よ」
お前んとこの小人さん食うよりはいいだろ。
後、タヌキは食わんぞ。
「またまた。裏庭に絞めたタヌキさんが吊られているんですね。わたくしには分かりますよ、人の子よ」
だからタヌキは食わんと言っとるだろうが。
「実の所わたくし、タヌキさんの実物を見たことが無いのですよ、人の子よ」
ヨーロッパ方面だと珍しいらしいな。
「わたくしの所では見た事は無いですね。アライグマならいるのですがどうなのでしょうか。人の子よ」
見た目似てるが、味は違うんじゃねえのか。あっちは熊だろ。
「タヌキさんは何なのですかね。人の子よ」
原始的な犬の一種って聞いたが。まあ、犬っぽい味はするぞ。
「やっぱり食べているじゃないですか、人の子よ」
アクと臭いが凄えんだよな。
「犬はどうなのですか。人の子よ」
犬も脂っぽいぞ。皮が分厚くてな。後、アクがやたらと出るぞ。
「色々食べているのですね。罪深い人の子よ」
感謝を込めて食ってるからな。
タヌキにしても、美味いのはアナグマの方だって話だな。
「アナグマの方の味はいかがでしたか。人の子よ」
残念ながらアナグマはねえんだよ。
アライグマなら、最近増えているらしいから罠でも仕掛けりゃ手に入るかもな。
「あのような可愛い生き物を、殺して食べるというのは抵抗がありますよ。人の子よ」
そのアライグマだがな。
なんか、アニメ見た連中が飼い出して、手が付けられなくて捨てたのが増えたらしいぞ。
「あのように可愛らしい生き物を捨てるのですか。人の子よ」
そのアニメからして、子供の時に拾ったアライグマをどうにもできなくなって森に捨てに行くまでの話なんだがな。
それまでも延々苦労する話が続いて、とても飼おうなんざ思わんだろうにと思ったモンだ。
「軽々しく生き物を飼ったり捨てたりする者は、その程度なのでしょうね。人の子よ」
まあ、物凄い大暴れするらしいからな。罠かけるにしても、絞める手段を考えないとあかんな。
「結局食べる気なのですね。人の子よ」
熊の一種なら、臭いとアク抜きをなんとかすれば美味いと思うぞ。
「アクは出るのですね。人の子よ」
野生動物は基本的にアクが多いんだよ。そのまんま食えるのなんざ、家畜の豚とか牛とかだけだぞ。
「小人さんは生でもいけますよ、人の子よ」
お前の時々見せる残虐性はなんとかならんのか。
「なりませんね。わたくしはわたくしでありますので」
まあええわ。
いい加減メシも炊けたし、そろそろ丼作りたいだがいいか。
「ええ。わたくしもご相伴に預かれるならばそれでよいですよ。人の子よ」
あいよ。
それじゃあご飯を盛って、刻み海苔撒いて、そばつゆかけてと。
「やはりそばつゆは基本ですね。人の子よ」
で、天カスばらまいて、そばつゆかけて。
ほれ、出来たぞ。
「何て事をするのですか! 人の子よ!」
なんだよいきなり。
「どうして貴方はわたくしが居る時に限ってこういう罪深い料理を作るのですか。ああ、罪深い。罪深いですよ。人の子よ」
とか言いつつガツガツ食ってるな。
「それはもう。このように罪深いカロリーの塊が不味いはずがありません。ああ罪深い罪深いですよこれは。どうしてくれるのですか人の子よ」
ほれ、七味。
「なんということでしょう。これで味が変わってさらに罪深くなってしまったでは無いですか、人の子よ」
あんまかけるなよ。わさびもあるからな。
「貴方はなんという悪魔的な事を考えるのですか、人の子よ」
シメはわさび混ぜての茶漬けだぞ。
「貴方を魔王に認定いたしますよ、人の子よ」
そんな適当に出来る魔王とかイヤだな。
まあ、油と米そのまんまだからな。お手軽美味いのは間違い無い。
「この辛さのアクセントがまた素晴らしいですね。人の子よ」
いくらでもメシが食えるのが、まさに貧乏人の知恵だな。
「ときに、どうしてタヌキさんなのですかね」
よく知らん。
「知らないのですか」
まあ、たぬきと言うくらいだから。なんかの「ぬき」からだろうな。
「タネぬき」とかそんな感じだろ。
「タネぬきで、タぬきですか。なるほど有りそうな話ですね。人の子よ」
本気にするなよ。
昔、おれが適当に言った事を本気にした奴が、言いふらして回ってな。
「後になって恥をかいたと怒り出したのですね。分かりますよ人の子よ」
何故か割と広まっちまって往生した。
「真っ赤な嘘が真実に化けてしまったやつですね。よくある事ですよ人の子よ」
人の口が挟まると冗談だか本気だか分からなくなるのがいかんよな。
「そもそも、冗談と本気の区別もつかない人の子もおりますからね。人の子よ」
そういうのが一番参るんだよな。
「友達の友達が言っていたんだけど。というやつだね」
ご飯を盛りながら現れたのはトコヨ荘の古株のテイさんだった。
なんでこう、他人の言った事を簡単に信じるんすかね。
どう考えてもヨタ話じゃねえかってのが当たり前みたいな顔してのさばってるのはよく分からん。
「都市伝説というものですね。やがてそれは伝説になるので、わたくしとしては重要な現象なのですよ。人の子よ」
「お仲間が人間をそのようにデザインした。まであるからねぇ」
やっぱりこのエロ女のせいか。
「わたくしはそちらの方には関係しておりませんよ、人の子よ。そちらの担当は別のです」
どっちにしてもロクでも無い奴なんだろうなぁ。
「敢えて言いませんがロクでなしですね」
「ロクでなしなんだねぇ。やっぱり」
ロクでもあるなら、もうちょいいい世の中になっとるわな。
「おれはわるくねえ。が口癖の方ですよ。人の子よ」
敢えて言ってるじゃねえか。
「言いたくなるタイプなのですよ。人の子よ」
まあ、ロクデナシってこったな。
「それじゃあ、友達の友達が言っていた美味しい卵かけご飯でも作るとしよう」
卵かけご飯って、生卵に醤油かけて溶いてご飯投入するだけじゃないんすか。
「わたくしは納豆を混ぜるのが好きですよ。人の子よ」
子供の頃は卵混ぜないと食えなかったなぁ、納豆。
「関西の出だったかな?」
元々あんまり好きじゃなかったんすよ。
「それではわたくしに下さい」
悪いが今では大好物だぞ。
「大好物を分け合うと言うのも良いものですよ。今風に言うと、えもい、とか言うらしいですよ。人の子よ」
最近の連中の物言いはよくわからん。
「ボクらの時代で言うところの『をかし』らしいよ」
おれの時代ではをかしをかし言ってる女は流石に絶滅してましたけどね。
なんでもかんでも「カワイー」って、甲高い声で言ってたのはいましたが。
「ああ言うのを見ると、時代が変わっても人間は変わらないんだなと安心するね」
もうちょっと進化とか進歩とかしててもらいたいんですがね。
「簡単に進化されても困りますよ、人の子よ。わたくしがつまりませんから」
お前はもうちょっとつまれ。
「小人さん育成ゲームではいつも詰まっていますよ」
また絶滅させたんか。
「リセットさんがおりますから、最近は大分楽ですね」
おかっぱは色んな所で便利に使われているな。
「それでは、感謝を込めて彼女のために美味しい卵かけご飯を作ることにいたしますよ。人の子よ」
「それじゃあ、醤油は卵の前にご飯にかけてよくかき混ぜようか」
それは醤油ご飯では。
「お醤油ご飯、中々に罪深いですね、人の子よ」
熱々のにバター入れる奴もいるぞ。
「それは罪深すぎて却下です。後でやりますよ。人の子よ」
「それで、醤油がご飯に絡んだところで卵投入だねぇ」
「これは美味しいにきまっているではありませんか」
天カスも入れてやるぞ。
「罪深いですよ、人の子よ! 食べますが」
食うんかい。
「食べます。わたくしはどれほど食べても太りませんからね。人の子よ」
前に比べると尻が太くなった気がするんだが。
「よく見ていますね、人の子よ。やはりわたくしの魅力にめろめろなのですね」
でかいケツを人目はばからず晒して歩いてりゃ、イヤでも目につくわい。
「きみは大きいお尻派だからねぇ」
いや、だからテイさん。そういう話はっすね。
「ほー。それはそれは。隠れて見るにはわたくしは許しますよ。人の子よ」
ほら、面倒くさい事になったじゃねえっすか。
「先輩が女神サマにホレてるとかマジでござるか~!」
うるせえニンジャ。
「……ん」
脚出して何だ。お前は何がしたいんだ。
「そこは察するべきやろ。ホンマにデリカシー無いな」
一応言っておくが、こいつは無口で純粋な女とかじゃないからな。
「ちらちら」
自分で言うな。いいから脚を仕舞え。
「いやいや、彼女は純情な女性ですとも。私が保証しますよ」
優等生の保証が一番信用できんだろ。
「アタシとしては、若い美人の脚が見れただけで金払うべきだと思うわ。というか、脚見せるからお金頂戴」
ブルセラかお前。
「ブルセラって、完全に死言じゃないですかやだー」
分かるお前も同世代だぞおかっぱ。
わらわらと住民どもが集まってくる。
三々五々、好き勝手言いながら好き勝手にメシを盛る。
ガヤガヤと広がるデマは、もう原型を留めない何かになっていた。
なあ、おかっぱ。これをリセットできんか?
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