第23話 生地と挽肉とラザニアと揚げピザ

 挽肉と餃子の皮か。どうすっかな。


「どーした。珍しく難しい顔して」

 でかぶつか。珍しくは余計だ。


「んで何だ? 生地と挽肉広げて」

 ほれ、こないだ餃子作ったろ?


「オレは知らんが」

 作ったんだよ。で、これがその余りだ。

「ギョーザ作れよ。そしてオレに食わせろ」

 ニラが無ぇんで餃子は却下だなぁ。他に何かあるかね。


「チーズだったら売るほどあるぞ」

 生地と挽肉とチーズか……ピザでも作るかね。

「ピザにするにゃ、挽肉が多すぎるだろ常識」


 シカゴピザっつうのがあってな。一度試してみたかったんで丁度いいわ。

「なんだそりゃ。シカゴとかいう国のピザって所か」


 まあそんなモンだな。

 生地の上に凄え分厚い挽肉とチーズの層を乗っけた代物だな。

「景気の良さそうな食いもんだな」

 カロリーの塊みたいなモンだが。一度食ってみたいとは思ってたんだよ。

 じゃー、生地で皿を作って、その上に挽肉を積み上げてと。

「分厚いなおい。てか、それだと挽肉崩れるだろ」


 うーん、そうだな。

 フライパンにそのまま生地を貼った方がいいなこりゃ。

「つうか、挽肉とチーズだけだと食ってて飽きるぞ、常識」


 だよなぁ。

 火も入り切らんだろうし、ぶっつけでやるにはちょいと難しいかこれ。


「表面焼いたらレンチンでいいんじゃねえの?」

 面倒くさいな。

 開けた所で肉汁ブシャーが目に見えるしな。


 つうかこれ、ピザにするよりラザニアに近いな。

「そっちは知らん料理だな。美味いのか」


 生地と挽肉の層をいくつか作って、ホワイトソースとチーズで煮るんだよな、確か。

「確か、かよ」


 昔、かーちゃんが作ってくれた以来だからなぁ。

 まあ、そうそう不味いモンにはならんだろ。ホワイトソースは生クリームで代用だな。

「ピザが煮物になったな」


 この量だと煮物の方が良いだろ。

「シカゴなんとかはどうするんだよ」


 考えてみりゃ、ハンバーグチーズと大して変わらんだろ。

「それを言うとなんもかんもつまらなくなるぞ、常識」

 いつか、シカゴに食いに行くか、誰かに買ってこさせるわ。


「食ってみれば何か違うのが分かるかもしれんしな」

 それでチーズハンバーグと同じなら、それでいいしな。


「で、ラザニアだが」

 アニメでカエルが食ってたらしいんだが。

「カエルが食うのか」

 知らんわ。おれは見てなかったしな。


 で、見てた弟が食いたいってワガママ言い出してな。

「いいご母堂じゃねえか」

 冷凍で売ってた奴よりは、かーちゃんが手探りで作った奴の方が美味かったな。

「料理上手の良いご母堂だったんだな」

 まだ死んどらんがな。


 まあ、うろ覚えだがなんとか出来るだろ。

「やっぱレンチンか」

 電子レンジは必須だな。さもなきゃ弱火で半日以上煮込む必要がある。

「超絶面倒くさい料理だな」


 さすがのかーちゃんも、何回か作ったらもうやらなくなったな。

「何回かは作ったんか」

 最後の方はラザニアっぽい謎の料理になっとったがな。

「おいおい」


 つうことで、作るのはその謎の料理の方だ。

「美味いんだろうな」

 不味くは無いぞ。

「おい。不安になるような事言うんじゃねえよ」


 挽肉チーズの煮物で不味くする方が難しいぞ。

「それならアレだ。トマト入れようトマト」

 じゃ、タマネギとパプリカも入れるか。

「原型無くなってきたな」

 もはやクリーム煮の様相を呈してきたな。


「いいんじゃねえの。こっちのが美味そうだ」

 食えりゃいいんだよ。食えりゃ。


「君らね。さっきから見てると行き当たりばったりすぎない?」


 と、呆れたように出てきたのはトコヨ荘の古株のテイさんだった。


「原型が分からん以上、行き当たりばったりになるのはしゃあないだろ。常識」

「こう、レシピを調べるとか色々あるじゃないか」

 テイさんはレシピ知ってるんすか?


「いや全然」


「意味ねーなー」

「でもほら、スマホで調べるとか出来るんじゃないかな」

 おれはケータイも持ってねえっすよ。

「オレが持ってると思うか?」


「こういう時こそ友達を使うものだよ。ほら、いつもツルんでいる連中いるじゃないか」

 ゲームチャンプも優等生もスマホ使わせてくれないんすよ。

「個人情報だー。とか言って見せてもくれんよな」

 あれだろ。彼女の写真とか入ってるんだろ。


「つうても、おっかねえ妹と嫁だろ? 前に何度か自慢されたぞ」

 おれは見せてもらってねえぞ。

「対応が違うのは、何か含みを感じるねぇ」

 あいつら許さねえ。


「つうか、見せたらどうするよ?」

 そら、隠し撮りして末代まで騙り継ぐに決まってるだろ。

「自業自得じゃねえかよ」


 くっそ。


 だとしても、それならでかぶつには見せるんじゃねえのか?

「多分、見せられないものが入っているんじゃないかな」

「壁紙が別の女になってるとかだな」


 ゲームチャンプの方は愛人がいるの嫁も知ってるんじゃなかったっけか?

「巨乳の妹とかな」


「愛人が妹というのはいいとして、どうして巨乳を強調するのかね。彼は」

 何かトラウマあるんじゃねえんすかね。


「嫁がトラウマになるくらい平たい胸なんじゃねえの?」

 お前が見た写真はどうなんだよ。

「胸当てしとったから剥いた所は分からん」

 上げ底か。


「女性のパット上げ底は許してあげるべきだと思うけどねぇ」

 つか、女だけでしょうが。そんなん付けるのは。


「オレんとこは男もつけるぞ。ちんこケースだが」

 なんでそんなモンつけてるんだよ。未開の地かよおまえんとこ。


「貴族は下半身タイツなんだよ。そんなモンだから、シルエットがモロに見えるんだよ」

 なんだそれ。ニンジャの親類か。


「あんな露出狂と一緒にすんじゃねえよ。オレもみっともなくてイヤなんだけど、伝統だかなんだかでずっとそんな格好させられてるんだよ。近い内に連中皆殺しにする」

 さらっとおっかない事考えてるな。つうかお前は必要ないだろ、ちんケース。

「オレよりでかい奴はさすがにいなかったな。ケース込みでも」


 おまえのは異常だ。邪魔じゃねえのか。

「産まれた時から有るもんだからな。あるのが当然で邪魔かどうかもわからん」


 昔いた奴で、片金潰れてた奴がいたんだが。バランス悪いみたいだな。

「それは、そうとうでかい金玉の持ち主なんか」

「それはどうか分からないけれど、平衡感覚がおかしくなるとか言っていたねぇ」


 俗説だと片金の方が強くなるって話だが。

「オレには縁遠い話だからどっちでもいいな。試してみたらどうだ?」

 おれも別に今んで不自由してねえよ。

「ボクもしていないからねぇ」


 テイさんは試しで両方潰してみたらどうっすかね。

「何か酷い事言われてないかな、ボク」

「そりゃまあ、普段の言動がな」


 さて、適当にぶっこんでチーズと生クリームで煮ると。

「少し材料が余ったねぇ」

 安売りしてたからって、大量に買い込みすぎたっすかね。


「よし、それじゃオレが揚げピザを作ってやる」

 またカロリー高そうな奴を。

「お前の想像してる奴とは別だぞ」


 あれだろ。普通にピザ作って衣つけて揚げるんだろ?

「違げえっつうの。挽肉とトマトとチーズを生地で包んで揚げるんだよ」


 それは揚げ餃子って言うんだよ。

「違げえっつてんだろ」


「カルツォーネという奴だね」

 あのでっかい餃子っすか。

「お前は餃子から離れろ」


 いや、餃子だろ。でなけりゃ、生地を締める時に折り目つけてるんだよ。

「知らんがな。なんかやりたくなる気がするんだろ」


「あれは不思議だよね。折り目つけなくても、フォークで折り目みたいな凹み作るんだよねぇ」

 やっぱり餃子じゃねえっすか。


「中身が違うしでかいだろ」

 でけえ餃子くらいあるだろ。

「もう餃子でいいわ。チーズ西洋餃子っつう事にしてやる」

 まあ、おれもどうでもいいんだがな。


「君たちが揃うと本当にグダグダになるねぇ」

 こだわり無いっすからね。

「美味けりゃそれでええわ」


 それで、西洋揚げ餃子は美味いんかい。

「そりゃ、チーズ入った揚げ生地だからな。不味くする方が難しいぞ」

 確かに。それじゃあまあ、上がるまでメシでもレンチンしてやるか。


「待て待て。炭水化物オン炭水化物か?」

 餃子はおかずだろ。

「生地使ってるからパンとか米はいらんだろ常識」

 それじゃ味が濃すぎるだろ。米は必須だろうが。

「味を控えめにすりゃ済む話だろ。米入れるのは食い過ぎだぞ常識」


「これは、根深い問題だねぇ」

 なんか、中国人も餃子をご飯で食べるのに異議を唱えるとかって話っすね。

「ほれ、やっぱりそうだろ。常識」


 日本人は米を美味く食うためにおかずを食うんだよ。

「糖尿病で死ぬぞ」

 食いたいモンも食わずに長生きするなんざ御免こうむる。


「そうそう、そのとおり。炭水化物オン炭水化物何が悪いって言うんだよ。ラーメンライス最高じゃない? ねえ」

 そうだそうだ。言ってやれゲームチャンプ。


「いやぁ。さすがにそれは無いでござるよ。小麦粉と米で味がダブってしまうでござる」

「そうだそうだ。言ってやれニンジャ」


 メシの匂いに誘われて、わらわらと住民達がやってくる。

 三々五々、好き勝手言いながらおかずが上がるのを待っている。

 こうなると、ご飯の方も結構な量用意しないとダメだなこりゃあ。

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