第8話
「くそっ…!なんで俺らがこんな事に巻き込まれなきゃいけねえんだよ!」
自己紹介の時に口を開いたきりの男が口を開く。名前は確か、
君も岩動に対して不信感を抱いているのか、岩動が口を開いた瞬間君の顔が不快感を前面に出した顔になる。
デスゲームに出てくる人物で、この様に弱音を吐く様なのは必ずと言っていいほどいるテンプレ的男だ。
岩動に噛み付くかの様に武志が口を開く。
「それはこっちも一緒だ。とにかく全員で協力してここから出る為にお前の情報をもっと教えてくれ。頼む。」
急にまともになる武志に驚きが隠せない様な表情をする君。誠意が篭った言い方だったのか君はすぐに柔らかい表情になり武志の方を見る。
「俺の情報なんか知っても何も変わんねえだろ!」
急に梓が大声を上げる。唐突な大声で、武志と君と僕以外の人が全員ビクつく。
梓自身も、自分の大声にびっくりしている様子だったが、君はそんな梓を横目に見てから、背筋を伸ばし、部屋の中を端から端まで何かを探す様に歩き回る。
君は何も言って居ないのに、梓以外の全員が部屋の中を探索し始める。梓は一人取り残された様にポツンと突っ立って居た。
そこに僕がヒーローの様に颯爽と梓の目の前に立ち、可能な限り優しい声で話しかける。
「今は何も信用出来ないかも知れませんが、お互いが生き残る為に、一緒に探索しませんか?」
僕なりの精一杯の優しさを出して、人を安心させる事の出来そうな笑みを必死に作る。
何故僕がここまで頑張るのかと言うと、別行動を始める奴が一人いるだけで、それに吊られて他の人も別行動をし始めてしまう可能性があるからだ。こう言う輪を乱しそうな奴は早めに潰す。
潰すと言うのは語弊が生まれそうだが、そう言うのが出る前に、輪の中に組み込むのだ。そうすれば輪を乱すものは出てこない。
「何もない。どうする直太。」
君が少し沈んだ声で話し掛けてくる。君以外の人も、何もないといった様な表情を浮かべている。本当に何もない様だ。
「…あそこのテントとかも何もない?」
僕はふと目についたテントを指差して聞いてみる。
「いや、あそこが1番怪しいと思って徹底的に調べたがチリ一つ出て来やしない…ただ、上のシートが普通のテントに比べて分厚かった。」
この部屋にあるテントは、お祭りなどで良くありそうな、完全に覆われているテントではないテントの、凄く小さい版の様なもので、そのテントの上のシート部分は一般的なものだとそこまで分厚くないはずだが、君の報告だと分厚いらしい。
『皆さん。場所取りの事忘れてませんか?場所取らないと良い位置を取られてしまいますよ?』
無機質な声は少し苛立っている様で、急き立てる様に話す。全員場所取りの事を忘れて居た様で、みんな自分の良さそうだと思った場所に移動し始める。
僕と君もその流れで、テントに移動する。
直感がテントに移動するように誘導しているかの様にテントに向かって足が進む。梓以外のみんなも同じ様で、一斉にテントに向かって歩き出す。
梓以外の全員がテントの中に入ると、もう誰も入れないだろうと言うくらいまでに人が集まった。ここに梓が入って来たら、必ず一人はテントの外にどうしても出てしまうほどだ。
梓はこちらにくる様子もなく、無造作に引かれたブルーシートの上に寝転ぶ。
全員が場所取りをしたあたりから、じわじわと暖かくなってくる。一人テントの外にいる梓は眠くなって来たのか、呑気にあくびをしている。
ふと目を離した隙に、梓はもう眠りについて居た。
それからしばらくすると、部屋が真夏の様に熱くなってくる。30秒ほどでフライパンの上にいるかの様な暑さになる。
流石にこのままでは、梓が死んでしまうと思った僕は出来る限り大きな声で叫ぶ。
「梓さん!起きて下さい!このままでは死んでしまいます!早く起きて下さい!」
梓はそれでも起きる様子はなく、そんな呑気な梓の肌をじりじりと高熱で焼いていく。日焼け的な焼きではなく、物理的な灼熱攻撃の様な、そんな焦げ方だ。
異臭が漂ってくる。目の前で人が焼かれる光景を目の前にして、先程の洸が死んでいった光景を思い出す。あの様に梓も焦げて死んでしまうのだろうか…
そう思った時、部屋の温度が一気に上がる。
見る見るうちに梓の肉体が焦げて消えてゆく。
もうここまで来たら梓は亡くなっているはずだ。
立ち込める異臭と、暑さで全員がダウンしそうな頃、また無機質な声がする。
『お花見といえばさっき死んだ奴の様に景色のいいブルーシートの上に人が集まると思ったんですがね。予想が外れてしまった様ですが、まあ気にしないことにしましょう。取り敢えず、何故皆さんが生き残れたかと言う説明をしておきましょうか。皆さんのいるこのテントは、上のシートが熱を遮断するもので、あのシートが上からの熱を遮断して居たのですよ。まあ色々突っ込みどころありますが、その辺は大人の力でチョチョイのチョイな訳で、細かい所は気にしない事ですね。それでは質問があれば答えますよ。』
君が静かに口を開く。
「何故この様な事を始めたんだ?」
無機質な声が、少し怒りを込めた声で答える。
『理由なんてそんなものどうでもいいじゃないですか。さあ次の部屋に移動して下さい。』
明日の君と今日の僕 ソルエナ @Soruena_0211
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