第2話 白のワンピースに着替える
レストラン(元)の二階のバルコニーには赤い二人掛けのソファーとコーヒーテーブルが置かれていた。前方には雑木林が広がっていて、しっとりとした朝の空気に鳥の鳴き声が飛び交っている。
僕はチヨをそのソファーに降ろして、先程用意した飲み物を運んだ。
「朝食は何がいいですか?」
「ううん…」
チヨは食事という行為に対して消極的である。適当におやつをつまんで済ませてしまうことも多い。育ち盛りの少女にとって決して良いことではないだろう。
何か食べやすくて滋養のあるものを作ろうか。いや、一昨日の夜設置したばかりの冷蔵庫には碌な食材がない。レトルトも悪くはないけれど、さて。
「どこか外に食べに行きましょうか。この辺りはモーニング営業のあるカフェも多いですよ」
「あ、それいいね。越してきてから籠りがちだったし」
買い物の大半をネット通販か僕のおつかいで済ませていたので、チヨはこの城からほとんど出ていない。日がな一日ゲームか読書をして過ごしている。ただし、起きている間中休む間もなく常にそのどちらかをしているのだから、逆にすごいと思う。
「せっかくだし、この前買った余所行きの服を着て、小洒落たかふぇーにでも行こうよ。はいそはいそ」
「それでは姫様、お召し替えをお願い致します」
「よろしくてよ」
普段はやや無気力というか、何だか冷めたところのあるチヨだが、今朝は少しはしゃいでいるように見える。年相応の少女の様で微笑ましい。
僕は差し出された手を取ってチヨを立ち上がらせると、手早く片付けをして、着替えて、行くべきかふぇーをネットで探した。
少し早い時間帯だったので営業時間が合うか心配だったが、目ぼしい店舗が見つかって安心した。
「チヨ、準備はできましたか?」
彼女がウォークインクローゼットとして使っている部屋のドアをノックする。
「入って」
「失礼しま…」
僕は空けたドアをそっと閉じた。
下着姿のチヨがいたためだ。
「入ってと言ったんだけど」
向こうからドアを開けられてしまった。
先程の全裸の件といい、この子はちょっとおかしい。いや、魔法少女である時点でどうしようもない程おかしいのだけれど。
「ううん、カズヤがその恰好なら、こっちの方がいいかな?」
どうやら着て行く服を決めかねていたようだ。
最終的に楚々とした白いワンピースが選ばれて、それを頭から被るように着始めた。腰のところが絞られたデザインであるためか、少々着にくそうで、両手を挙げてもぞもぞしているのが少し可愛らしかった。
「ちょっと、笑ってないで手伝ってくれても良かったんじゃない?」
「ああ、すみません」
「カズヤの笑顔を見たのは今のが初めてなんじゃないかな…。すごく複雑な気分。もう少し出し惜しみしようよ」
はて、そんなに笑っていなかっただろうか。
きっとそうだろう。
少し前まで、僕は絶望の淵にいた。トラン(元)の二階のバルコニーには赤い二人掛けのソファーとコーヒーテーブルが置かれていた。前方には雑木林が広がっていて、しっとりとした朝の空気に鳥の鳴き声が飛び交っている。
僕はチヨをそのソファーに降ろして、先程用意した飲み物を運んだ。
「朝食は何がいいですか?」
「ううん…」
チヨは食事という行為に対して消極的である。適当におやつをつまんで済ませてしまうことも多い。育ち盛りの少女にとって決して良いことではないだろう。
何か食べやすくて滋養のあるものを作ろうか。いや、一昨日の夜設置したばかりの冷蔵庫には碌な食材がない。レトルトも悪くはないけれど、さて。
「どこか外に食べに行きましょうか。この辺りはモーニング営業のあるカフェも多いですよ」
「あ、それいいね。越してきてから籠りがちだったし」
買い物の大半をネット通販か僕のおつかいで済ませていたので、チヨはこの城からほとんど出ていない。日がな一日ゲームか読書をして過ごしている。ただし、起きている間中休む間もなく常にそのどちらかをしているのだから、逆にすごいと思う。
「せっかくだし、この前買った余所行きの服を着て、小洒落たかふぇーにでも行こうよ。はいそはいそ」
「それでは姫様、お召し替えをお願い致します」
「よろしくてよ」
普段はやや無気力というか、何だか冷めたところのあるチヨだが、今朝は少しはしゃいでいるように見える。年相応の少女の様で微笑ましい。
僕は差し出された手を取ってチヨを立ち上がらせると、手早く片付けをして、着替えて、行くべきかふぇーをネットで探した。
少し早い時間帯だったので営業時間が合うか心配だったが、目ぼしい店舗が見つかって安心した。
「チヨ、準備はできましたか?」
彼女がウォークインクローゼットとして使っている部屋のドアをノックする。
「入って」
「失礼しま…」
僕は空けたドアをそっと閉じた。
下着姿のチヨがいたためだ。
「入ってと言ったんだけど」
向こうからドアを開けられてしまった。
先程の全裸の件といい、この子はちょっとおかしい。いや、魔法少女である時点でどうしようもない程おかしいのだけれど。
「ううん、カズヤがその恰好なら、こっちの方がいいかな?」
どうやら着て行く服を決めかねていたようだ。
最終的に楚々とした白いワンピースが選ばれて、それを頭から被るように着始めた。腰のところが絞られたデザインであるためか、少々着にくそうで、両手を挙げてもぞもぞしているのが少し可愛らしかった。
「ちょっと、笑ってないで手伝ってくれても良かったんじゃない?」
「ああ、すみません」
「カズヤの笑顔を見たのは今のが初めてなんじゃないかな…。すごく複雑な気分。もう少し出し惜しみしようよ」
はて、そんなに笑っていなかっただろうか。
きっとそうだろう。
少し前まで、僕は絶望の淵にいた。沈む所まで沈んでしまっていた。今も然程状況が変わっているわけではないけれど、チヨという希望がある。
『悪魔に魂を売り渡す覚悟はある?』
一週間前のあの日、チヨはそう言った。
僕の搾りカスのような魂など二束三文だ。ささやかな希望を買えるのであれば安いものである。
僕はチヨの眠たげな、深い水底のような目を覗き込んで、にっこりと笑ったのだった。
魔法少女は世界樹の夢を見るか(仮) Hallucigenia @hallucigenia
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