竜騎手団にも新人が入ったよ
竜騎手団にも新人が入った。
新人のレクタンダス(レッキー)は、副団長のハダルクに連れられて団のミーティングルームへと入室したところだった。
だが彼の予想と異なることに、そこには、青の
てっきり、団員たちと顔を合わせるものだとばかり思っていたレクタンダスは、拍子抜けした顔になった。礼を失しないようにと配慮はしていたが。
「うちは領地をもつ貴族の嫡子が多いし、
青年のとまどいを察して、ハダルクが優しく声をかけた。「全員を紹介するのは全体訓練のときになるが、ひとまず名前だけでもと思ってね。ここにはあれがあるから……えーっと……」
「写真」青い
「そう、写真」
〈呼ばい〉をつかう竜族たちは、たがいの脳内イメージを共有することがたやすくできる。だから、人間の国と比べると写真技術の普及はおそかった。それが、ここ数年で導入が進んでいる。ハートレスたちとの情報共有に役立つほか、意外にも家族の新しい肖像画としても人気があるらしい。
「アマトウ卿のことは知っているかな?」
ハダルクの問いかけに、レッキーは威勢よくうなずいた。「はい! 検診でお会いしました」
「アマトウは青のライダーで、うちだけじゃなく城の医療チームも担当している。多忙なので、今日顔合わせができてよかったよ」
「よろしく」アマトウが軽く肩をたたいて
ハダルクは、キャビネットの上に立てかけてある写真をひとつずつ示した。
「若手からいこうか。……ロールとサンディ――ロレントゥス卿とサニサイド卿は、どちらもエクハリトス家に近い家のご出身」
「はい。存じあげています」
どちらも有名な青年貴族なので、レッキーも名前を知っていた。金髪のロレントゥス卿は、王都で〈ハチドリの竜騎手〉と呼ばれる剣とダンスの名手。養子なので、外見上にエクハリトス家らしさはない。サンディは黒髪にハシバミの目で、デイミオンに似た面差しがある。二人ともしかつめらしい顔で写真に写っているが、いかにも人々が思い描く
「ザックことザカリアス卿は、南部領主エサル公の
「あの金髪の、筋肉馬鹿で有名な……」
「否定はすまい」ハダルクは苦笑いした。「領地を離れるのを嫌がっていたそうだが、
「南部の女性は強いからなぁ」アマトウが感心したように言う。「リアナ陛下も南部育ち……いや、北部のお生まれか。でも、北部の女性も強いからな……」
「竜族に
さて、ハダルクは紹介を続けていった。いずれも団の中核となる黒竜のライダーたちだ。
マイルは実戦ではハダルクに次ぐ重要ポジションにある。ロカナンは希少な白の竜騎手なので、同じく団員のジェーニイ同様、勤務に出ることは少なく不在がち。シメオンはがっしりとした体格、茶髪にめずらしい髭だが、ハダルクたちよりやや下の世代。……など。
「そして、こちらが団長のグウィナ卿」
ハダルクはそう言いながら、さりげなく写真の女性を撫でた。
「領地の仕事と子育てがひと段落なさったということで、団に復帰なされたばかりだよ」
この二人の結婚は、最近王都でも話題になったばかりだったから、レッキーもつい好奇心で尋ねる。
「グウィナ卿とハダルク卿は、団で出会われたんですよね。素敵ですね」
「そうだね」ハダルクは口端を笑ませた。
「私とアマトウが入団したとき、当時の団長は王太子エリサ殿下。そして副長がグウィナ卿だった」
「存じあげています」レッキーは顔を紅潮させて続けた。「当時は女性の団員も多かったとか。エリサ王はもちろん、グウィナ卿も軍ではたいへんな活躍だったのですよね」
「竜術を使うのに男女差はないから、本当なら団の半分が女性でもおかしくはないんだ」ハダルクはため息をついた。
「だが、どの家も、昨今は女性を団に出したがらなくなった。婚活はあまり期待しないほうが無難だな」
「そうなんですか」レッキーはしょぼんとした。彼の実家は中級貴族で、王都で嫁を見つけてこいとはっぱをかけられているのだ。
「この人もね。今はいっぱしの人格者っていうお顔をなさってますけど、同期で入ったときには、そりゃあひどかった」アマトウが、含み笑いで口を挟んだ。
「獅子みたいな総髪で、
「やめろ、アマトウ」
「当時からモテてモテて。タマリスのご婦人方の家から重役出勤でね、いやぁうらやましかったなぁ」
「やめろ」
「当時の団長と副長、つまりエリサ王とグウィナ卿にしごかれて、ずいぶん丸くなったみたいだけどね」
「それ以上つまらない内輪ネタを続けるようなら、先日の宴席での貴殿の醜態が、奥方になぜか伝わることになるぞ」
「わぁ、妻に言うのはやめてー。しかも、自然と伝わる形にしないでー」
ハダルクとアマトウは、いかにも男同士の気やすさでぽんぽんと言いあっていた。レッキーは、なんとなくそれがうらやましくなった。
「ん? どうした?」ハダルクが視線に気づいたらしく、微笑んだまま尋ねた。
「あ……いいえ、すみません」レッキーは頭をかいた。「同期の絆っていうのに、ちょっと憧れてて……。竜騎手団に入るとき、同期の人がいればいいなぁって思ってて」
「そうか」ハダルクは困ったような笑みを浮かべた。
「少子化の影響で、毎年ライダーを補充できるわけじゃないんだ。すまないね」
「ハートレス隊のほうに行ってみたらどう?」アマトウが、ぱちんと指を鳴らした。「新人が二人はいったって聞いたよ。男の子と女の子と。君と同い年くらいなんじゃないか?」
「そうなんですか?」レッキーの顔に明るさが戻った。「よかったぁ。後で、ごあいさつに伺ってもかまいませんか?」
「もちろんだよ。サンディに案内を頼んでおこう」ハダルクが彼の肩に優しく手を置いた。
♢♦♢
レクタンダスが去ると、年長の二人は新人について2、3の気づきを共有した。素直な若者だし、サンディも面倒見がいいから、うまくやれるだろう。
「……ただ、素直なだけに染まりやすいという点は、心にとどめておかないとな」アマトウが言った。
「レランも素直で信じやすい若者だったが、反体制派の思想に染まってリアナ陛下に刃を向けた。竜騎手団の消えぬ汚点だ」
「たしかにな」ハダルクがふっと肩の力を抜いた。
「だが、時代はずいぶん変わったよ。リアナ殿下を護衛して、ケイエからタマリスに向かったのは、たった一節(十二年)前のことなのに。……ハートレスと聞いた時の、彼の表情を見たかい?」
「ああ。そうだな」アマトウも表情を緩めた。「うるさ方はいろいろ言うが、やはり、時代はよくなりつつあると僕は思うよ」
ハートレスたちへの偏見を薄れさせていったのは、〈竜殺し〉フィルバートが長年国に献身してきたからだし、それを支える王配リアナの貢献でもあった。新しい時代に階級を越えた友情が生まれることは、特に父親としてのハダルクには、おおいに意味のあることだった。
「それを、私たちは盤石なものにしなくてはな」ハダルクはそう言って、かつての同期と腕をぶつけあった。
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こちらも、「セルフお祝い」からのサルベージです。
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