ハートレス部隊に新人が入ったってよ

「はーい、じゃあ、テオ隊長のご帰還と、新人さんの入隊を祝してー」

「「「かんぱーい」」」


 タマリス城下、食堂兼酒場〈三人の求婚者スリー・スータズ〉亭。黒のジャケットに白のパンツというそろいの制服姿で、ハートレスの部隊員たちがジョッキを打ち鳴らしていた。あわせて十名ほどの人数である。


「えー、この春もこうして、新たに若い隊員を迎えることができたわけですが」

 テオが切りだすと、「よっ隊長!」「隊員集めリクルートおつかれ!」と声がかかる。

 

「よしよし。……んじゃ紹介するな。リーリンとトールだ」

 テオの紹介に合わせ、男女がぺこりと頭を下げた。リーリンは長身で茶髪の女性。トールは中背で金髪の男性。どちらも、成人して日が浅いのがわかるういういしさだった。

「リーリンです。出身は中央領リトルヴァレー」

「トールです。西部領カフカスの生まれで、就職活動でタマリスに出てきました」


 続けて、彼ら新人に隊員を紹介していく。年齢順なのか、最初はテオと同年代の黒髪の男をジョッキで指す。

「スタニーはうちの副長だ。元隊長と俺らと同期の、最後の生き残り。『生き汚いガミースタニー』って呼ばれてる」

「呼ばれてねぇよハゲ」

「ハゲてねぇよモジャ男」

「おまえみたいな、そういうストレートの金髪はのちのちハゲんだよ」

「あぁ!? 非モテはひっこんでろ」

「怒るとこが事実を裏づけていると俺は見た」

「はァ~!? 怒ってないですけどぉ~?」


 いがみあう年長の二人を、年少組のケヴァンとミヤミが生ぬるい目で見ていた。この二人は、成人してからも酒はほとんど飲まず、今日も食べる方に集中している。

 不毛なやりとりを見かねて、髭面の大男がテオの肩をたたいた。

「隊長。紹介。続き」

「ハイ……」

 テオも素直に居ずまいをただす相手は、『部隊の良心回路』ことシジュンだ。冬場には肩に頭にふわもふのエナガをのせていたりして、素朴な農夫という言葉がしっくりくる。

「でもこれで、シジュンはヒゲを剃ったらイケメンなんだよな」

「えーっ」リーリンが、うれしい悲鳴をあげた。


「ケヴァンは、剣の扱いじゃ図抜けてる。フィルバート元隊長の秘蔵っ子ひぞっこだな。新人教育もこいつの担当だから、わからないことがあったら聞いてくれ」

 紹介されたケヴァンは、面白くなさそうな顔でうなずいた。


「ミヤミは唯一の女性隊員だったんだけど、今年から二人になったな。リーリン、この絹毛鼠ハムスターみたいなやつがミヤミ」

「よろしくお願いします」ミヤミはぺこりと頭を下げた。


 ミヤミの隣から、ケヴァンが話しかける。

「ハムスター呼び、怒っていいんだぞ」

「なんか……同じレベルで怒るのも馬鹿らしくて……」と、ミヤミ。

「わかったよ! 俺が悪うございましたよ! 最低のパワハラ上司ですんませんね!」テオが遠くの席から噛みついた。

「ほら、ああやって妙なねかたするし」


 ひと通り部隊員の紹介が終わると、テオが新人二人のほうに向きなおった。

「じゃ、なんか質問ある?」


「あの」トールがおそるおそるというふうに手をあげた。

「フィルバート元隊長は、いらっしゃらないんですか?」

 部隊員たちは顔を見あわせた。やはり、ハートレスといえばフィルバート・スターバウの名前を避けては通れないらしい。


「あームリムリ。あの人いま新婚だから」ジョッキをかたむけ、スタニーがひらひらと手を振った。

「しかも、お相手はな・ん・と、上王リアナ陛下」

「えーっ」

「すごーい」

 新人の二人が、ういういしい驚き方をした。


「そういや連隊長、こないだ羊皮紙にサインの練習してましたよ」と、若手隊員の一人が告げ口(?)する。

「なんで? いくらあの人が書類嫌いの隠れ脳筋つっても、字くらい書けただろ」と、テオ。

「いや……『フィルバート・ゼンデン』って紙いっぱいに署名して、俺らに見せてまわってました」


「なにそれ……? どういう乙女心なの……?」テオがおそるおそる尋ねた。「お婿むこに行きたい気持ち?」


「領主の自覚ゼロっすね」ケヴァンが辛辣しんらつひょうした。


「フィルバートさま……あんまりかっこよくない……」ミヤミがため息をついた。

「ルーイのことがあったし、で結婚だからなぁ、連隊長の女性人気もうなぎ下がりだろうな、ひっひひ」スタニーは面白くてたまらないようだ。


 その後、年少組は勤務交代のため、夜食を持って城に戻った。

 年長組は昔話に花を咲かせ、シジュンのウワバミをからかい、新人たちの来歴を聞きだしながら、杯を重ねていった。


【終わり】


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■おまけのプロフィール


(年長組・隊長と副長)

テオ:金髪(アレンジ多め)、身長高め、わりとマッチョで苦労人、中間管理職

スタニー:黒髪天パでひょろっと細身、ちゃらんぽらんしている

 ・この二人は、どちらもフィルと従軍経験あり。スタニーがちょっと年上。


(中間組)

シジュン:部隊一の長身、伸ばしっぱなしの銀髪にヒゲ。寡黙で温厚

  ほか数名いるが、この日は勤務でした。


(年少組)

ケヴァン:短め黒髪、兵士としてはやや小柄。フィル仕込みの剣技を使う

ミヤミ:小柄で、数少ない女性兵士。リアナ付き侍女から部隊に編入されたが、やっている仕事はあまり変わらない。武器はナイフのみ


(新人さん)

リーリン

トール

 ・どちらも本文中のとおりの外見。戦後世代なので、フィルのことはほぼ伝説中の人物になっている。ハートレスへの偏見が薄くなっている世代なので、年長組に比べると素直で明るい。


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「セルフお祝い」からのサルベージです。

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